【こんな人】泣いて笑って怒って…“ご法度”の一喜一憂をエネルギーに変えた上田桃子のプロ人生
<国内女子ゴルフツアー:大王製紙エリエール・レディース>◇第2日◇15日◇愛媛県エリエールGC松山(6575ヤード、パー71)◇賞金総額1億円(優勝1800万円) 最後まで全力を尽くした。今季限りで第一線を退く上田桃子(38=ZOZO)は4バーディー、3ボギーの70で回り、通算4オーバーの88位で予選落ちが決まった。今週8位以上が最低条件だった次週の最終戦戦のメジャー、JLPGAツアー選手権リコー杯(21日開幕、宮崎)の出場権獲得はならず、今大会が事実上の最終戦となった。かつて取材してきた記者が上田への思いを記した。 ◇ ◇ ◇ 泣いて、笑って、口をとがらせて怒って…。 思わぬ風や、地面の起伏によって運不運が左右されるゴルフでは、1打1打に一喜一憂することは“ご法度”。宮里藍のように、感情の揺れを抑えてスコアメークすることがトッププロとして大事な素養とされる。だが、上田桃子は違った。自分の感情を出し惜しみすることなく表す。うれしい時は笑って、次の1打へ勢いをつける。悔しい時は自身への怒りをエネルギーに変え、逆襲の1打へつなげてきた。 初めて取材したのは00年10月の日本女子アマ。平泳ぎで全国2位になったこともある中2の少女ゴルファーは、既に鋭い勝負師の目をしていた。それでも、慣れないインタビューでは「250ヤードは飛びます」と笑っていた。 高校卒業後、江連忠に弟子入りするために、故郷熊本を離れて神戸へ。引っ越しを手伝ってくれた両親を見送る際は、大粒の涙がこぼれた。「私、絶対1回でテストに通るからねーっ!」。当時、実家のブティック店の経営は厳しかったという。それでも、快く送り出してくれた両親への恩返しを胸に刻み、日本と世界の頂点を目指した。07年、ツアー初優勝の祝勝会でも、江連コーチ、戦友諸見里しのぶらの祝辞を聞くと、下積み時代を思い出して泣いていた。 海外ツアーでは、目を輝かせた。おしゃれな料理店が立ち並ぶフランス・エビアン。「エビアンマスターズ親善大使」に選ばれ、ROLEXからプラチナ&白金が光る高級腕時計を贈呈された。スピーチで、とっさに出た言葉は「べ、べリ、リー、ハピー」。家族や関係者を笑わせた。 勝ち気過ぎる言動で周囲の反感を買い、ブログが炎上したこともあった。つらいときは熊本弁で「なるごつなる。よかごつなる(なるようになる。いいようになる)」と自分に言い聞かせた。父功一さんに幼いころから毎日のように言われた言葉だ。熊本の実家には「根性」と書いた半紙も張っていた。 上田の家には「トロフィーを飾る棚がない」と聞いたことがある。優勝記念品はすぐに倉庫へ。「負けた試合はもちろんだけど、勝った試合も私、すぐ忘れるんです。さあ次って感じで」と話していた。 プロとして数多くの功績を残してきたが、第一線を退く決意をした時点で、もう未練などないだろう。「さあ、次って感じで」。新たに歩む道でも、感情の全てをぶつけて切り開いていくのか。楽しみにしたい。【元ゴルフ担当=木村有三】