3年ぶりに復活した「黒字化目標」が意味するもの
しかし、東洋経済オンラインの拙稿「2060年の財政を『持続可能』にする増税以外のカギ 内閣府の長期試算が示す条件付きの未来予想図」で述べたように、4月に内閣府が公表した2060年までの経済・財政・社会保障の長期試算によると、2030年代以降もずっと平均的に実質成長率を1%超で維持し、医療と介護の改革が着実に進めば、大規模な増税をしなくても、基礎的財政収支の黒字を長年にわたり維持できて、債務残高対GDP比が安定的に低下してゆくことが示されている。
もちろん、2030年代以降もずっと平均的に実質成長率を1%超で維持するには、内閣府の長期試算でも認めているように、技術進歩と労働参加が促され、やや高めの出生率が実現しなければならない。これらの条件が満たされてはじめて、1%超の実質成長率が実現する。 加えて、医療と介護の改革も着実に進めなければ、税収等の伸びを超えて財政支出が増えてゆくことになるから、これらの改革も必須である。 それで初めて、増税はしなくても、債務残高対GDP比が安定的に低下してゆく。
増税を避けに避け続けるべく、技術進歩と労働参加の促進、出生率の上昇、医療と介護の改革を、果断に進めるか。それとも、医療と介護の給付が増えることを容認する代わりに、多少の増税は甘受するか。国民が総意としてどのような選択をするかが問われている。
土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授