津波の脅威伝える旧防災対策庁舎と南三陸311メモリアル:さんさん商店街で海の恵みも実感
土地のかさ上げで変貌した町で、海に向かって祈る
南三陸町の中心地・志津川地区は、復興工事によって海抜10メートルまで土地を「かさ上げ」した。そのため、旧防災対策庁舎が残る一帯はくぼんだ土地になっている。 海沿いを走る国道45号線などから望むと、3階から屋上辺りが目線の高さとなり、「ここよりも、さらに高い波が来たのか…」と津波の巨大さを実感する。 より正確に津波の高さが分かるのが「祈りの丘」だ。頂上部分は海抜20メートルの高さで、震災の犠牲者に祈りを捧げるための「名簿安置の碑」からは、津波が押し寄せた志津川湾が見渡せる。 その一段低い位置にある「高さの道」は、南三陸町を襲った津波平均高16.5メートルを周回できるようになっている。ここからは旧防災対策庁舎を完全に見下ろす形となるので、より津波の恐ろしさが胸を突く。ゆっくりと1周歩きながら、かつての町のにぎわいも想像してみてほしい。
隈研吾の名建築が復興を後押し
公園の東側を流れる八幡川には、木と鉄を組み合わせた人道橋「中橋」が架かる。反り橋と逆反りの橋が一体になったような珍しい構造で、日本を代表する建築家・隈(くま)研吾氏が手掛けたものだ。 南三陸311メモリアルや南三陸さんさん商店街も同氏の設計。町内産の杉材をふんだんに使用した斬新な意匠を眺めに、訪れる建築ファンも少なくない。 南三陸311メモリアルの建物は黒い外壁で、エントランスのある中央の通路部分から木材が放射線状に配置されている。来場者がタイムトンネルの中に吸い込まれるような感覚になり、2011年3月11日に思いをはせてもらう仕掛けだ。中央通路にある階段を上れば、展望デッキから中橋や震災復興祈念公園、志津川湾が見渡せる。 館内の無料エリアには、南三陸町の被災から復興までのデータや、写真家と住民が協力して撮影した作品などが展示され、交流スペースでの企画展もあって見どころが多い。 ただ、できるなら有料ゾーンで被災者たちの生々しい証言を聞き、自然災害について学び合うラーニングプログラムにも参加してみてほしい。その後に旧災害対策庁舎を眺めると、当時の状況をリアルに思い描くことができ、防災意識もより高まるはずだ。