柿谷、本田、香川の美しい融合
香川を含めた3人のコンビネーションについても、本田は饒舌だった。 「普段は(特徴が)分かっている攻撃の選手だけでパス交換することが多くなってしまうんですけど、曜一朗が入ってくることによって、その人数が増えてくるんじゃなかという気がする」 本田から前線にける待ち焦がれたパートナーに指名された柿谷にとって、欲しいのは常連組がそろったザックジャパンにおける初ゴールとなる。 後半23分のシーンは、強引にシュートを放つ選択肢もあった。柿谷の右側を香川、左側を本田がフォローしていて、こぼれ球を押し込むことも可能だったからだ。 「一番いい形でシュートを打てる人が打てばいいんです。一番前で出ている以上、自分の仕事としてゴールが求められますけど、俺が、俺がというのは誰でもできるけど、そればかりじゃ絶対にダメなので。もちろん、いいトラップができたらシュートを打っていましたけどね」 柿谷はフォア・ザ・チームの精神を強調しながら、こう付け加えることも忘れなかった。 「スルーしてもよかったんですけどね」 香川と自身を結ぶ延長戦上には、本田が走り込んできていた。柿谷にとってはちょうどブラインドとなる位置だが、しっかりと背番号4の存在を把握していた。視線で通じ合う「アイコンタクト」ではなく、言葉も視線も必要としない「ハートコンタクト」がすでに開通していることになる。 試合終了を告げる笛が鳴り響いた直後のワンシーン。本田は真っ先に柿谷の元へ近づき、ガッチリと肩を抱き寄せた。 「試合後ですか? お疲れ、って言われただけっすよ(笑)」 短いねぎらいの言葉に、本田のどんな思いが凝縮されていたのか。誰よりも、当事者の柿谷本人が分かっているはずだ。 「半分出ただけでどうこうというのは、あまり思わない。もっと(ボールの)落としとか、切り替えの速さを上げられると思うし、もっと守備でも助けられる。もっと周りの選手がプレーしやすい環境を作らない。試合に出るにつれてもっとできる、もっとやらなあかんと思うのは当然でしょう」 1年後のW杯まで残れるのか、それとも、失格の烙印が押されるのかのサバイバルゲーム。それがわかっているからこそ柿谷の照準は10日のガーナ戦に向かっている。一戦ごとに存在感を増し、本田、香川というオフェンスのキーマン2人との融合を見せてくれた。まだ柿谷が、そのワントップのイスを射止めたわけではない。だが、ザックジャパンにおける新鮮な風を巻き起こしていることだけは間違いない。 (文責・藤江直人/論スポ/写真・平野敬久)