原爆で全焼からの復活…サミット夕食会に出された小さな蔵の酒
今回のG7広島サミットでは、首脳陣のすべての食事に日本酒が提供されました。乾杯にはシャンパーニュ、デザート用にはソーテルヌ…そんな概念を変える泡酒や甘口の日本酒も登場。そして社交夕食会では、唯一広島市街地にある、小さな酒蔵の酒が選ばれました。
広島市内にあるマンション。実はこのマンションの地下には、酒蔵があります。清酒“蓬莱鶴”醸造元「原本店」。創業は1805年。この「地下にある小さな蔵」のお酒が、G7広島サミットの夕食会で提供されました。
■小さな蔵でつくられた“サミット酒”
蔵元の原 純さん(63)は6代目。奥さんと二人で酒造りをしています。 ――純米大吟醸 蓬莱鶴 奏~harmony~が首脳陣に振る舞われました。 原さん: 自分がいちばん驚いています。なんの連絡もなかった。夕食会翌日の午前中、問屋からの注文が多くてなんでだろうと思っていたら、午後に友人からの連絡で知りました。 ――どんなお酒なのでしょう? 原さん: 広島県内の米だけを使って造っています。このお酒は香りが豊かで、りんごや青りんごの香りが特徴です。すっきりとフルーティで口当たりが滑らか。ですが辛くもなく、飽きがこない。初めてお酒を飲む方も飲みやすいと思います。和食だけではなく、我が家ではハンバーグなどの洋食にもお酒を合わせて楽しみます。特にデミグラスソースなどと酒のフルーティさが良く合います。気軽に楽しんでほしいお酒です。ただ、生産量はすごく少ないので、まさかサミット用のお酒に選ばれるとは思ってもいなかった。
■原爆で全焼、そして復活
1805年創業の酒蔵「原本店」は、戦争を経験しています。1945年8月6日、原爆投下。爆心地からわずか2キロに位置するこの酒蔵は全焼しました。しかし翌年には蔵を再建、酒造りを始めたといいます。原さんの祖父や祖母は、原爆のことをあまり語ろうとしなかったそうです。 原さん: 「ヒバクシャ」と呼ばれるのが嫌だったんです。「原爆症」と呼ばれ嫌な思いもした。被爆した蔵の酒、ということで選ばれたのなら嬉しくない。全てを焼かれたが、翌年には曽祖父が蔵を再建して酒造りをはじめた、その姿を評価されたのならありがたいです。