戦前の日本は「美しい国」か、それとも「暗黒の時代」か…日本人が意外と知らない「敗戦前の日本」の「ほんとうの真実」
神武天皇、教育勅語、万世一系、八紘一宇……。私たち日本人は、「戦前の日本」を知る上で重要なこれらの言葉を、どこまで理解できているでしょうか? 【写真】戦前の日本は「美しい国」か、それとも「暗黒の時代」か… 右派は「美しい国」だと誇り、左派は「暗黒の時代」として恐れる。さまざまな見方がされる「戦前日本」の本当の姿を理解することは、日本人に必須の教養と言えます。 歴史研究者・辻田真佐憲氏が、「戦前とは何だったのか?」をわかりやすく解説します。 ※本記事は辻田真佐憲『「戦前」の正体』(講談社現代新書、2023年)から抜粋・編集したものです。
定まらない日本の自画像
われわれはいま、新しい時代のとば口に立っている。 明治維新から太平洋戦争の敗戦までは77年。敗戦から2022(令和4)年までもまた77年。戦前と戦後が並び、現代史が近代史をはじめて凌駕しようとする、これまでにない事態が目の前に開かれつつある。 いつまであの敗戦を引きずっているのか。憲法だって見直していいではないか。もういい加減「普通の国」になろう──。 近年、そういう声が徐々に高まっているのもゆえなきことではない。日本はもはや、アジアに燦然と輝く卓絶した経済大国ではなく、(そこで生活するものとしては忍びないことではあるものの)中国の後塵を遥かに拝しながら緩やかに衰退する斜陽国家になりつつあるのだから。 さはさりながら、われわれはみずからの国のありかたについて、かならずしも明確なビジョンがあるわけではない。 戦前と戦後を分かつ戦争の名称はその象徴だ。さきほど太平洋戦争ということばを便宜的に使ったけれども、これとて、けっして定まったものではない。 かといって、当時の名称である大東亜戦争はいまだ政治的に忌避されやすく、左派やアカデミズムの界隈が好むアジア・太平洋戦争(かつては15年戦争だった)もいかにも妥協の産物にすぎない。 もっとも中立的なのは「さきの戦争」「さきの大戦」だろうが、このぼんやりとした表現は、われわれの定まらぬ自画像にぴったり一致している。 このような状態だからこそ、われわれは過ぎ去ったはずの「戦前」にいつも揺さぶられている。まるで亡霊に怯えるように。