【問う 時速194km交通死亡事故】危険運転致死傷罪、速度やアルコール濃度に数値基準 法務省検討会が要件見直し案の最終報告 遺族「曖昧な運用が続く中、一定の成果」
大分市の時速194キロ交通死亡事故で適用要件の不明確さが浮き彫りになった危険運転致死傷罪について、法務省の有識者検討会は27日、一定の基準を超えた速度や飲酒で引き起こした事故で一律に同罪を適用できるよう、法改正を求める最終報告をまとめた。今後、法相が法制審議会(諮問機関)に諮る見通し。委員を務めた被害者遺族が取材に応じ、「曖昧な運用が続く中、数値基準導入の提言は一定の成果」と語った。 2月に始まった検討会はこの日、東京・霞が関で開かれた第11回会合で終了した。 委員は刑法学者や法曹三者ら計10人で、被害者遺族では東京都葛飾区の波多野暁生さん(47)が務めた。2020年3月、自宅近くで赤信号を無視した軽ワゴン車にはねられ、長女耀子さん=当時(11)=を亡くした。 波多野さんは「危険運転致死傷罪は適用のハードルが高い。捜査機関も立証が難しいと感じている」と訴え続けてきた。検討会は高速度と飲酒運転について見直しに言及し、「法定速度の○倍以上」「アルコール濃度が呼気1リットル当たり○ミリグラム以上」といった数値での明確な線引きを示した。 波多野さんも数値基準を提案した一人で、「現状の問題点が改善されることを期待できる」と評価した。その上で、「数値を下回っていれば問題ないという誤解が広がらないようにしなければならない」と述べ、基準値以下でも悪質な場合は適用できる条文にするよう求めている。 娘の命を奪った赤信号無視については「信号に気付かなかったという逃げ口上がまかり通る」と問題提起をしたものの、最終報告は現行の条文「信号をことさらに無視」の代替案がないとして、見直しに慎重な認識を記した。 波多野さんは「国民の常識との乖離(かいり)が埋まったとは言えない。今後も要望を続ける」と語った。
危険運転致死傷罪は法定刑の上限が懲役20年で、過失運転致死傷罪の同7年と比べて差が大きい。悪質性に応じて処罰ができるよう、危険運転と過失運転の「中間の犯罪類型」を新設する案も出たが、複数の委員は否定的だった。 交通犯罪に詳しい東京都立大法学部の星周一郎教授(55)は「故意に危険で無謀な運転をしているのに、不注意の事故と法的に評価されることに遺族は憤りを感じている。危険運転の処罰範囲を広げないのであれば、中間類型を検討するべきだ」と話した。 <メモ> 大分市の時速194キロ死亡事故は2021年2月9日午後11時過ぎ、同市大在の県道で発生した。当時19歳だった男(23)は時速194キロで乗用車を運転し、交差点を右折してきた車に激突。運転していた同市の男性会社員=当時(50)=を出血性ショックで死亡させた。危険運転致死罪に問われた男の裁判員裁判は今月5日に大分地裁で始まり、28日に判決が言い渡される。