日本初「恐竜学部」が誕生、福井県立大学の狙い 博物館とも連携、総合型選抜の倍率は10倍超
「フィールドワーク」と「デジタル技術」を融合
同大の恐竜学部では、恐竜だけを研究するわけではない。恐竜を自然科学の一環と捉えると、さまざまな分野が関係するからだ。 「トータルな自然史科学を学んでもらうようにしました。そのため、教員については、恐竜を主な専門としながら地質・環境・古生物などそれぞれ強みを持つ研究者を20人集めました。自然科学を基礎に、3年次からは『恐竜・古生物コース』と『地質・古環境コース』の2つのコースに分かれて専門性を磨いていきます」 学びの大きな特色としては、県立恐竜博物館との強力な連携体制、現場重視(フィールド科学の実践)、国際的視野に立つ教育・研究、先端技術による研究の4つを挙げる。 具体的には、福井県勝山市北谷恐竜発掘現場での化石発掘、発掘した化石の修復・補強などのクリーニング、研究・学習用標本をつくるレプリカ標本作成、博物館の展示を自身でデザインし発表する標本展示など、実践的な学びが盛りだくさんだ。 「2年次以降に通う新学部棟は恐竜博物館に近接します。博物館の研究員や学芸員の方々も教育研究に参加しますし、大学で製作したコンテンツは博物館に提供していきます」と、西氏は博物館との連携を強調する。 さらに、実際の化石からコンピューター上で3Dモデルを作り、バーチャル空間で展示・観察を行う古生物3Dモデル作成なども行うという。 「どんな分野もデジタルが必須となりましたが、古生物学においてもCTスキャンなどのデジタルによるアウトプット技術がないと論文が書きづらい時代になりました。そのため、『フィールドワーク』と『デジタル技術』という、今の恐竜研究に必要な2つの科学をうまく融合して学べるようにしています」
卒業生は「重要性を増す産業」に貢献できる
恐竜学部のスタートに当たり、先行して行われた総合型選抜の志願倍率は10倍超の人気ぶり。恐竜・地質学科6人の募集に対し県内8人、県外55人の計63人が出願し、倍率は10.5倍となった。一般選抜は大学入学共通テストを受験のうえ、前期日程は理科と英語の個別学力検査、後期日程は面接が行われ、合否判定される。 「私たちもここまで人気が出るとは思いませんでした。これだけ恐竜に関心のある学生がいるのは、とてもありがたいことだと感じています」と、西氏。適性は問わないが、恐竜や自然科学に興味関心のある学生にぜひ来てほしいと西氏は語る。 「多くの人は、人生の中で恐竜の化石と共に毎日過ごす機会なんてほとんどないでしょう。この貴重な機会を十分に楽しんでほしい。そして恐竜学部での学びを次の人生に生かしてほしいと願っています。卒業生には、できれば福井県で満足できる職に就いてほしいですね」 卒業後の進路については、研究者、学芸員、理科教員のほか、IT関連、土質力学・道路測量に関する地質系のデジタル関連、観光業、出版業や報道関係、地質・土木・建築系コンサルタント、土木系の公務員、ゼネコン等の建設産業、環境アセスメント関連などを想定しているという。 「フィールドワークとデジタルを学んだ恐竜学部の学生は、これから重要性を増す産業で貢献できるでしょう。今、全国的にインフラ整備に限界が来ているほか、気候変動や自然災害も社会課題となっていますが、こうした野外に関する仕事に対応できる人材が減っていることに危機感を持っています。恐竜学部で自然科学の重要性や楽しさを教えることができれば、このような重要な産業の人材育成にもつながると考えています」 もちろん、恐竜研究を福井県で継続させていくためにも、研究者を育成していくことは言うまでもない。現在、恐竜をはじめとした古生物の研究ができる大学は減少傾向にある。 「恐竜研究の場は決して多くなく、このままでは研究自体が先細ってしまいます。こうした状況からも、本学では大学院の設置も検討しており、恐竜を含めた古生物のすべてを学べる拠点にしていきたいと考えています」 (文:國貞文隆、写真:福井県立大学提供)
東洋経済education × ICT編集部