ルイ・ヴィトンのLVMHが直面する「中国業績の悪化」という転換点…AI戦略で挽回できるか
AI戦略による売り上げ回復は可能なのか
そこで、売り上げ回復のための一手として期待されているのが、AI技術などのテクノロジーを活用したDX戦略です。具体的に、ファッションビジネスに活用されるテクノロジーにはどのような事例があるのでしょうか。主に、「商品開発」と「ブロックチェーン技術によるブランド維持」が挙げられます。 1. パーソナライズされたマーケティングや商品開発 LVMHでは、AIを活用して、顧客の購買履歴やオンライン行動データを分析し、個々の顧客に合った商品レコメンドをしています。 例えば、ルイ・ヴィトンやディオールでは、オンラインストアとアプリでAIがリアルタイムに顧客データを解析し、最適な商品やキャンペーンを提示しています。このように、顧客に個々の趣味や嗜好に基づきパーソナライズされた体験を提供することで、リピート購入を促進しています。 また、AIによって市場のトレンドを分析し、新商品の開発にも活用しています。たとえば、歌手のリアーナがプロデュースするLVMH傘下の化粧品ブランド「フェンティ・ビューティ」では、ファンデーションの色あいが全部で50色もあり、多様性とインクルーシブネス(包摂性)を意識したブランディングがなされています。 しかし、消費者としては、細かい色彩の中でどれが自分の肌色に一番近いのか分かりません。そこで登場したのがAI搭載の「シェードファインダー」というツールです。 このツールは、AIによって消費者の肌色データや好みの傾向を解析し、肌色に合うファンデーションを見つけられるほか、色のバリエーションや製品フォーミュラの開発に反映するために活用されています。これにより、多様な顧客ニーズに対応した商品ラインナップを展開でき、特に新しい市場や顧客層へのアプローチを強化しようというわけです。 実際、あまりにファンデーションの色あいが豊富なため、「私の肌色に本当にこのファンデーションが合っている?」というテーマのTikTokビデオがあるほどです。 私も実際に使ってみたのですが、明るい場所で、化粧をしていない状態の肌で写真を撮らなければいけないなどの制約があるものの、自分の肌色が細かいレベルで分かる体験は楽しいものでした。美容関連製品は今後さらにパーソナライゼーションの動きが強まると言われています。 このようなツールを持つことでユーザーの肌色データを集めるだけではなく、もしかすると「精度を高め続けるフィードバックループを作る仕組みづくり」もしている可能性があると私は考えています。仮にそうだとすれば、競争優位性を担保する上でとても大事な取り組みだと言えます。 UGCによる大量の「データ収集」には苦労も UGCにおけるフィードバックの重要性は、自身の経験からも言えます。 私が経営するパロアルトインサイトでも以前、消費者から画像を集めてAIを使って解析をするというプロジェクトを実施したことがあります。その際、消費者から投稿される画像は異なる環境、異なるカメラで撮られており、条件が一致しないのが難点でした。 そこで、各画像を統一したものとして処理するために、まず「AIを使って画像の条件を統一する処理から始めた」という経験があります。このように、UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)は、使用する側からするとうまくいけば自動的にデータが集まり続ける利点がありますが、一方でユーザーから提出してもらうためデータの均質化に苦労することがあるのが事実です。 その点、前述のシェードファインダーが、画像を提出する時の条件を厳しく設定している理由として、写真のアップロード等が上手くいかない場合にユーザー体験を多少損なう可能性があるとしても、提出される画像の質の担保を優先しているのでは……といった解釈にも繋がります。 2. テクノロジーによる「真贋判定」と「商品トラッキング」 もう一つ興味深い事例をご紹介します。それは、AI技術とブロックチェーンを組み合わせて、商品のトラッキングと真偽判定を行う、というより高度な取り組みです。 Aura Blockchain Consortium(オーラ・ブロックチェーン・コンソーシアム)は、未来の高級品業界を支える鍵となる非営利団体として誕生しました。この団体は、LVMH、OTB、プラダ・グループ、カルティエ(リシュモングループ傘下)といった名だたる高級ブランドによって設立され、高級品業界に特化したブロックチェーン技術のソリューションを提供しています。その目的は、高級品業界全体の技術標準を確立し、顧客体験をさらに豊かなものにすることにあるとうたわれています。 Auraの提供するソリューションは、ファッションやジュエリー、時計、さらには自動車産業にまで及び、幅広い高級品セクターに対応しています。 各製品に固有のデジタルIDを付与し、偽造防止のための真正性確認を進めることが一つの柱です。これにより、「製品の出自」やサプライチェーンの透明性が高まり、顧客の信頼を確実にします。さらに、ブロックチェーン技術を用いて所有権の移転を円滑にすることで、リセールプロセスの効率化も促進されます。
石角友愛