【毎日書評】「就職氷河期世代」とは何者か?前期と後期で変わる格差・仕事観・マインドセット
1990年代半ばから2000年代前半の、バブル景気崩壊後の経済低迷期に就職した「就職氷河期世代」は、若年期に良好な雇用機会に恵まれなかった結果、中年期に至る今も様々な問題を抱えている。 この世代は現在でも上の世代に比べて、不本意ながら不安定な雇用形態にある人が多く、賃金が低い。(「まえがき」より) ここまでは、すでに多くの人が知っている事実であり、政府が公表している統計データを見てみてもすぐに確認できます。しかし、家族形成との関連性や人口動態に及ぼす影響などについては、データに基づく客観的な把握がなされているとはいいがたい──。 『就職氷河期世代-データで読み解く所得・家族形成・格差』(近藤絢子 著、中公新書)の著者は、そう指摘しています。そこで本書では、世代全体をカバーする大規模な統計データを用いて、就職氷河期全体の動向を客観的にとらえようとしているのです。 「経済的に不安定なので家庭が築けない」 「正社員でないと子どもが持てないから少子化が進む」 「就職氷河期世代は挫折を重ねてひきこもりになりやすい」 などといった通説が話題に上ることは少なくありませんが、それらは漠然とした個人の経験をよりどころとして語られることのほうが多いはず。だからこそ、それを客観的に検証してみせたわけです。 具体的には、中年期にさしかかった就職氷河期世代の現状、就職氷河期世代の結婚や出産行動、世代内の格差の広がり方、都市と地方の違いなどを、緻密なデータによって明らかにしているということ。 それらは実際に確認していただくべきだと思いますが、ここでは就職氷河期世代がどのようなものであるのかについて、あらためて確認してみたいと思います。
「就職氷河期世代」とはなにか
冒頭で触れたとおり「就職氷河期世代」とは、1990年代半ばから2000年代初頭にかけ、バブル崩壊後の不況のなかで就職活動に臨んだ世代を指します。 このことばが初めてメディアに登場したのは1992年秋といわれており、1994年には新語・流行語大賞特別賞を受賞しているようです。このころ、バブル崩壊を受けて雇用情勢が急激に悪化し、新卒の就職市場も冷え込んでいったわけです。そして就職難は90年代末にはさらに深刻さを増し、2000年代半ばまで続くことになったのでした。 しかし、具体的にいつからいつまでを就職氷河期と呼ぶのでしょうか? 本書では、2019年の「就職氷河期世代支援プログラム」関連の公文書の定義に倣い、1993~2004年に高校や大学などを卒業した世代を就職氷河期世代とする。生まれ年で言うと、1970年(1993年に大学を卒業)から1986年(2003年に高校を卒業)が該当する。「国勢調査」(総務省統計局)の人口データと「学校基本調査」(文部科学省)の進学率などを使って大まかに計算すると、1993年から2004年の間に高校・短大・大学を卒業し社会に出た就職氷河期世代の人口は、約2000万人だ。これは日本の人口の約6分の1にあたる。(4~5ページより) 定義に多少の幅はあるものの、バブル崩壊後に10年あまり続いた就職難の時期に社会に出て、2024年現在、30代の終わりから50代前半となった世代が就職氷河期世代であるということです。 ただし、その世代もさらに区分けする必要があるようです。ポイントは、97~98年の金融危機の前後で雇用情勢が大きく変わること。そこで本書では、93~98年卒を「氷河期前期世代」、99~04年卒を「氷河期後期世代」と定義し、区別しています。 前者はそれ以前の売り手市場との激しい落差を経験した世代であり、後者は雇用の水準そのものがどん底だった世代。(4ページより)