「前代未聞であり、言語道断である」…「最高裁長官」の主導による「大規模な情実人事」が下級審裁判官たちに与えた悪影響
「裁判官」という言葉からどんなイメージを思い浮かべるだろうか? ごく普通の市民であれば、少し冷たいけれども公正、中立、誠実で、優秀な人々を想起し、またそのような裁判官によって行われる裁判についても、信頼できると考えているのではないだろうか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 残念ながら、日本の裁判官、少なくともその多数派はそのような人々ではない。彼らの関心は、端的にいえば「事件処理」に尽きている。とにかく、早く、そつなく、事件を「処理」しさえすればそれでよい。庶民のどうでもいいような紛争などは淡々と処理するに越したことはなく、多少の冤罪事件など特に気にしない。それよりも権力や政治家、大企業等の意向に沿った秩序維持、社会防衛のほうが大切なのだ。 裁判官を33年間務め、多数の著書をもつ大学教授として法学の権威でもある瀬木氏が初めて社会に衝撃を与えた名著『絶望の裁判所』 (講談社現代新書)から、「民を愚かに保ち続け、支配し続ける」ことに固執する日本の裁判所の恐ろしい実態をお届けしていこう。 『絶望の裁判所』 連載第24回 『最高裁の「判事」を経ずに「長官」になるきわめて異例の出世…裁判員制度導入がもたらした「刑事系裁判官」の逆襲』より続く
露骨な情実人事
この間(2000年ころ以降)、前回紹介したポスト以外も含め、事務総局は、刑事系に限らず、ほぼ例外なく竹崎氏と関係の深い裁判官で占められている。 このような状況について慨嘆したある元裁判官の言葉を紹介しておく。 「竹崎氏が、最初は陰の主役として、後には最高裁長官として主導した2000年代以降の人事はまさに前代未聞であり、言語道断である。 矢口〔洪一〕さんには、まだしもつつしみというものがあり、このような露骨、極端なことまではしなかった。こうした大規模な情実人事が下級審裁判官たちに与えた悪影響には、はかりしれないものがある」 私が、現在のキャリアシステムはもはや自浄作用が期待できない状況となっていると分析する根拠の一つは、たとえばこうした事態にある。現在の裁判所は、いわば、こうした「毒」が全身に回った状態となっているのである。 日本を震撼させた衝撃の名著『絶望の裁判所』から10年。元エリート判事にして法学の権威として知られる瀬木比呂志氏の新作、『現代日本人の法意識』が刊行されます。 「同性婚は認められるべきか?」「共同親権は適切か?」「冤罪を生み続ける『人質司法』はこのままでよいのか?」「死刑制度は許されるのか?」「なぜ、日本の政治制度はこんなにもひどいままなのか?」「なぜ、日本は長勤の停滞と混迷から抜け出せないのか?」「なぜ、日本の政治と制度は、こんなにもひどいままなのか?」「なぜ、日本は、長期の停滞と混迷から抜け出せないのか?」 これら難問を解き明かす共通の「鍵」は、日本人が意識していない自らの「法意識」にあります。法と社会、理論と実務を知り尽くした瀬木氏が日本人の深層心理に迫ります。