なぜ女性は自己免疫疾患にかかりやすいのか、三毛猫と同じしくみが関係していた、最新研究
例は三毛猫、X染色体の不活性化とは
女性の体の各細胞には2つのX染色体がある。1つは母親から、もう1つは父親から受け継いだものだ。男性はX染色体を母親から、それよりもずっと小さいY染色体を父親から受け継ぐ。 Y染色体に含まれる遺伝子は100個程度である一方、X染色体には900個以上の遺伝子が含まれている。 X染色体上にある遺伝子の活動が男女で同等になるように、女性のすべての細胞内では、2つのX染色体のうち1つがランダムに不活性化する。これは、胎児の発達段階の初期に、Xist分子とそれに結びつくタンパク質が、X染色体のうちの1つに巻き付いて起こる。もしX染色体が2本とも同じように活性を保っている場合、その細胞は死んでしまう。 結果として、女性の体には、母親または父親由来のX染色体のどちらかが不活性化された細胞が、モザイク状に存在する。メスのネコに三毛猫がいるのは、このX染色体の不活性化が原因だ。三毛猫の場合、3色のうち黒かオレンジ色かを決める遺伝子がX染色体上にあるため、毛の一部は一方のX染色体によって黒に、また別の部分は、もう一方のX染色体によってオレンジ色になる。ちなみに、ほかの染色体にある別の遺伝子が働くと白くなる。 しかし、X染色体のこうした仕組みは完璧ではなく、不活性化されたはずの遺伝子の15~23%はそのまま活性を保つ。そうして活性が保たれる遺伝子のひとつは、全身性エリテマトーデスと関連があると考えられている。また、X染色体を余分に持って生まれた男性も自己免疫疾患を発症するリスクが高いことからも、X染色体の重要な役割がうかがわれる。
Xistが自己抗体を誘発
Xist分子の研究を長年続けてきたチャン氏は、Xistと一緒に働く多くのタンパク質が自己免疫疾患と関連しており、それらが誤って自分の体の細胞を標的とする「自己抗体」によって攻撃されることを2015年に発見した。 そこで、チャン氏のチームは、女性の方が男性よりも自己免疫疾患にかかりやすい理由を調べるために、通常はメスにしかないXist分子をつくるよう遺伝子を操作したオスのマウスを作成した。 ところが、Xist分子をつくるオスは、それだけでは自己免疫疾患を起こさなかった。 このXistをつくるオスに、自己免疫疾患を誘導する薬を投与するとようやく、自己抗体のレベル(濃度)が上昇し、全身性エリテマトーデスのような病気が引き起こされた。同じ薬をメスやXistを持たない通常のオスにも投与して比べると、Xistをつくるオスの自己抗体レベルは、通常のオスのレベルを超えて、メスに匹敵する程度まで上がった。さらに、通常のオスより重い組織の損傷と炎症の悪化が見られた。 また、自己免疫疾患になりにくい遺伝子を持つ系統のマウスを使ってXistをつくるオスを作成し、同じように実験すると、薬を投与しても病気にならなかった。 これが示唆しているのは、たとえXistが存在しても、自己免疫疾患を引き起こすには、遺伝的な背景あるいは環境的なトリガーが必要になるということだ。 「つまりはこれが、女性は例外なく体中でXistが働いているにもかかわらず、大半が自己免疫疾患にかからない大きな理由のひとつです」とチャン氏は言う。 同研究は、そのような要因で細胞が損傷した場合のみ、Xist分子およびそれと結びつくタンパク質が細胞の外へ漏れ出し、免疫系がそれらに対する自己抗体をつくって、自己免疫疾患を発症させることを示している。