湾岸タワマンは将来「負の遺産」確定?麻布エリアに「永遠に勝てない」悲しすぎる理由
なぜ「湾岸タワマン」は「麻布エリア」に勝てない?
ただし、日本にある多くのタワマンは、その「終わり」まで想定されているとは言い難い。 極端な話、東京の港区や千代田区で山手線の内側にあるタワマンは、建物の「終わり」がやってきても解決策はある。老朽化した建物を取り壊して、建て直せばいいのだ。 現在の貨幣価値とコストでシミュレーションしてみよう。 港区の麻布エリアにある500戸のタワマンが築60年を迎えたとする。老朽化が進み、建替えのプランを検討し始めるとする。 このときの条件は厳しい。現状、都心での建て替えプロジェクトはほとんどの場合、元のオーナー負担がゼロで行われる。50戸の老朽化マンションを立て直すと100戸の住戸が誕生し、余剰の50戸を分譲することで建築費が得られる、という構図だ。 だが、タワマンの場合は容積率は一杯一杯なので、再建築する新たなタワマンも元の住戸数と同じ500戸しか作れない。ただ、港区の麻布エリアにある500戸のタワマンなら、管理組合は数年の議論を経たとしても取り壊しての再建築を可決できるはずだ。 その理由は、「コスト」である。 1戸当たりの取り壊し費用は1,000万円。再建築のためのコストが3,000万円だったとする。かつ3年程度の仮住まいが迫られる。その費用は2,000万円程度を見込むべきだろう。 それでも、500戸のオーナーは喜んで賛成するはずだ。そして合計6,000万円の費用を負担する。現金で払えないオーナーは借りてでも払う。銀行も喜んで貸すだろう。もちろん、再建築されたタワマンの住戸を抵当にすることを条件にしてだ。 その理由は、再建築されたタワマンの1住戸の資産価値が2億円程度に見込まれるからだ。総額6,000万円の費用負担と3年の仮住まいで、2億円のタワマン住戸が手に入るのだ。このプランに賛成しないオーナーはいない。 ただし、これは港区の麻布エリアという日本でも最高レベルに不動産価格が高いエリアだからこそ描けるシナリオである。また、不動産の資産価値評価や建築コストが現状のままであったら、ということが前提である。 では、今盛んにタワマンが建設されている東京の湾岸エリアで、再建築したタワマンの資産価値が6,000万円に満たないエリアはどうなるのか。 日本の人口は減少過程に入っている。このトレンドは今後何十年と変わらないだろう。かつ、東京の人口はほとんど変わっていない。人口増=住宅需要増、という基本を考えれば、東京の住宅価格が現在のように上昇し続けることはあり得ない。 さらに、東京という街が膨張し続けることを前提に開発されている湾岸エリアでは、半世紀先でもタワマン1住戸が今の貨幣価値にして6,000万円を超える資産価値評価を得ているだろうか。この先も湾岸埋め立てエリアのタワマンが人気を保ち続ける未来が待つ保証はない。 タワマンというのは、限られた敷地に多くの住戸を作る、ということに建設する意味がある。土地が荒涼と広がり、未来の不動産評価が危うい埋立地でただ「売れるから」という理由で多くのタワマンを建設し、分譲するのは我々の子孫に対して「負の遺産」を残すことになりかねないのではないだろうか。
執筆:不動産ジャーナリスト 榊 淳司