臨場感を表現するには? 動物写真家・岩合光昭さんが撮る“猫写真の秘密”
動物写真家・岩合光昭さんの最新大判写真集『ネコ日本晴れ』。都市・大阪府の中心街から、瀬戸内海に浮かぶ香川県・女木島まで、さまざまな地域に根ざして生きる猫たちがいきいきと映し出されています。 A4サイズの大きな写真集はまるで写真展のよう。猫は毛の質感まで見事に捉えられ、背景の景色も表情豊か。猫が生きる各地の美しさもしっかりと伝わってきて、どの写真も見るたび新しい発見があります。ディティールまで岩合ワールドが堪能できるのは大判写真集ならではの魅力です。 しかし、岩合さんの写真はどこがそんなに特別なのでしょうか? どこに秘密があるのでしょうか? 担当編集者の斎藤実が写真集に収録したカットをもとに解説します。
光も影もしっかり撮る
――『ネコ日本晴れ』は猫専門誌『猫びより』の連載をまとめた写真集ですね 【斎藤】まとめたといっても、全136カット中71点が未掲載カットですので、ほぼ別物になっていると思います。編集にあたっては岩合さんの野生動物の写真集も見ながら、より「岩合さんらしい」写真を意識して選びました。 ――ずばり、岩合さんらしさって何でしょう? 【斎藤】まず動物を見る解像度の高さでしょうか。表紙の写真は、女木島のシロちゃんという猫を撮ってるんですけど、迫力ありますよね。バーンと目の前にぬっと顔が現れたような感じ。 普通、ピーカンの時に白いものを撮ったら光で細部が飛ぶのですけど、岩合さんは意地でも飛ばさないんです。そして影の部分もしっかり撮る。ただの猫の顔なんですけど、すさまじい情報量です。毛の質感とか、骨格や肉づきまで手に取るようにわかるんです。 すみずみまで撮るということは、岩合さんが猫の毛一本一本まで意識されているということだと思います。だから、写真とは思えない臨場感が出てくるのでしょう。
猫のポーズを待つ忍耐がすごい
――今回の写真集は女木島の写真が多いですね 【斎藤】はい。「岩合光昭の世界ネコ歩き」(NHK BS)でも香川編はあったのですが、諸事情あって女木島は出てきませんでした。どちらも2020年秋の撮影なのですが、幸い天気がよかったみたいで、連日秋晴れのいいお天気だったようです。 岩合さんは数日で2万枚ほど撮影してもらいました。どれもいい写真ばかりでしたけど、表紙になったシロちゃんたちの撮影はすばらしかったですね。 他の写真や撮影日時からの推測ですが、岩合さん、毎日浜に通って徐々に猫たちと距離を詰めていたったようです。最初遠巻きに望遠レンズで撮るとか、短時間で切り上げるとかいう下準備をしてるのがわかりました。最終日にようやく張り付いて長時間撮影するんですよ。 気ままな猫に合わせて、海岸行ったり、道路行ったり、道端でゴロンしたら側溝に潜って青空バックで顔のアップ狙ったり。それで撮れたのが表紙の写真ですが、他の写真も秀逸なのが多かったですね。個人的には、シロちゃんが友達のハチワレと並んでシッポをクロスさせてる絶妙なカットが印象に残ってます。 普通、猫ってカメラの前でこんなポーズしてくれませんよ。「これだ!」というポーズをやってくれるまで待つ、驚くべき忍耐だと思います。 しかも、背景の構図が完璧ですよね。手前の花、左の林、後ろの雲と対岸の島影。猫がこの絶妙なポーズをやってくれた一瞬にこの構図でシャッター切るなんて、ただただ脱帽です。