臨場感を表現するには? 動物写真家・岩合光昭さんが撮る“猫写真の秘密”
猫の足元にもピントを合わせる
――岩合さんは背景の景色もしっかり撮りますね 【斎藤】猫だけじゃないんですよね。猫が生きてる空間もすみずみまで撮ろうとするんです。例えば、このうどん屋に通ってる香川のハナコという三毛猫がカメラに向かって鳴いた瞬間の写真。花子の胸の毛の繊細さに目を奪われるんですけど、写真とは思えないぐらいに臨場感たっぷりなんですよね。 よく見ると背景もきっちり撮ってるんですよ。特にポイントは足元。他の写真もそうなんですけど、岩合さんは猫の全身を好んで撮るし、その時、猫が足を置いている面をしっかり撮るんですね。
【斎藤】広島の宮島で杓文字屋さんのジェイの横顔を撮った写真でも、背景をぼかしてるように見えてジェイが寝ている座布団の周りはきっちりピントが合ってるんですよ。猫が存在してる面はきっちり撮るんです。だから、猫と周りの空間の関係が一発で見えて、こちらは猫がいるかのような錯覚に陥るのだと思います。 ――岩合さん自身の目線も低いですよね 【斎藤】いつも猫の目の高さで撮りますよね。だから、岩合さんの写真は猫がカメラ持って猫を撮ったみたいに見える。和歌山の漁港のおりんがベタっと地面に寝そべってる写真も、大阪中心街で撮影したモーの写真も、寝そべるような姿勢で撮ってると思います。 まるで岩合さん自身が猫になって、猫をしっかり見て、猫が生きてる周りの景色をしっかり見て、それでシャッターを押したんじゃないかしらと思うこともあります。猫も周りのことを信じられないぐらいよく見てますし、自分の足元はほんのささいなことでも見逃しませんから。
――編集者として岩合さんの猫写真のどんなところに魅力を感じますか? 【斎藤】ささいなポーズや動作から「猫ってこんなに素晴らしい生き物だったんだ!」と再認識させてくれるところでしょうか。 岩合さん、日常をとことんありのままに撮ってくるですよ。そのありのままをとことん律儀にすみずみまで見ているからこそ、現実の重みや日常の輝きがダイレクトに伝わってくる。 猫をしっかり撮る、背景をしっかり撮る、猫が生きてて人が生きてる世界のありのままのリアリティを撮る......だから、よく知ってるつもりの猫のさりげない姿にも感動できるし、新しい発見があるのだと思います。
猫びより編集部