「ズレない時計は面白くない」 半世紀続く時計店、大みそかに店を開けるのは… 映し出す時代の変化
時代が変わった
健司さんによると、年々、遠方からの修理を依頼するお客さんが増えているそうです。 健司さんは、町の時計店が少なくなり、修理ができるお店が少なくなったことが影響しているのではないかとみています。 「私が子どものころは、このあたりに4~5件の時計店がありましたが、今ではウチだけです」 店の棚には、様々な時計メーカーの部品が詰まった小さなケースが並んでいます。 古い時計で、既にメーカーにも部品がない場合、こうしたストックから部品を取り出して修理できないか試みるのだそうです。 「時計店同士で珍しい部品を融通しあうこともありましたが、時計店の数が少なくなり、こうした横のつながりも減りつつあります。自分で部品を作ってしまう超すご腕の職人もいますが、それをできる人はごくひと握りです」 そして安価なものなら数千円で腕時計が買えてしまう時代。「高級品をのぞけば、修理してまで同じ時計を使う人は少ないでしょうね」と健司さんは指摘します。 文則さんは「安価な時計には、使い捨て前提でそもそも修理できるような構造になっていない製品もある。これはあまりにも寂しいよね」とこぼします。
時を重ねて
年が明けると、1月中旬ごろから店には受験生やその親が訪れるようになるそうです。 「試験用の時計を買ったり、ずれた時計を直したりしに来る方が多いです」と健司さんは話します。 2000円前後の安価な時計を購入していく人が多い中、「父の時計を試験会場で使いたいので点検やベルトの調整をしてほしい」といった依頼もあるそうです。 「長く使ってもらえると、うちの店で買ってもらったものでなくても、少し嬉しくなりますね」と健司さん。 文則さんは「人が手を入れてやることで、持ち主と一緒に時を重ねていくのが時計の面白さだと思う」と話します。 「派手な商売ではないけれど、この場所で長く細く、続けていくつもりです」