世界記録につながった残り7kmの川野のスパート「来年の世界陸上で勝負をすることを意識して歩いていました」【35km競歩世界新・川野将虎インタビュー前編】
■レース3日前にシューズを変更した経緯 ――3分52秒、3分57秒、4分00秒とハイペースを刻んだ後、フィニッシュまでの4kmは、4分04~06秒でした。世界記録ペースを維持しようとしていたわけですか? 川野:本来であれば最後の5kmも4分を切るペースで行かなければ、世界陸上でメダルを狙って行く勝負はできません。そこは世界陸上に向けての課題と思っています。最後1kmはさらに、3分40秒を切るようなスピードに上げることができたら、世界の強豪選手にも勝てる実力がついたとことになります。 ――3分50秒を切るではなく、3分40秒を切る? 川野:それだけのスピードを最後に出せるくらいの力が必要だと思っています。 ――スパートするまでは、ロスをしない効率的な歩きができていたのでしょうか? 川野:そうですね。ルールに沿った動きで、終盤まで大きく動いて推進力をしっかり出すことも高畠のテーマにしていました。シューズとも関係してくる部分ですが、4月に行われた世界競歩チーム選手権では、カーボンの入った厚底に近いシューズを履いていました。スピードは出やすく、楽に歩けるシューズではあるのですが、疲れてくるとハムストリング(大腿裏)や殿部など大きな筋肉を使って歩けなくなります。それまでの準備の過程では、そこを解消することができませんでした。 酒井コーチ:東京世界陸上はラスト5kmを、(1km毎)3分台で歩かないとメダルは厳しいと考えています。22年の世界陸上オレゴンも、23年世界陸上ブダペストも後半勝負でした。オレゴン金メダルのマッシモ・スタノ選手(32、イタリア)は、最後は3分40秒台とすごいスピードに上げて、川野は1秒差で銀メダルでした。それを考えたとき、川野にとってカーボンを入れた厚底に近いシューズは、スパートする余力を残す点でまだ難しいと思います。少し厚めの中厚底にしていただいたカーボンなしで、ソールに地面にかかるグリップが付いているシューズに一度戻しました。決めたのは高畠の3日前でした。