横断歩道で認知症の母が車にはねられた。一緒にいた精神を病む兄は行方不明に。ピンチはチャンスではなくピンチだけ
◆2.医師にベッドの柵を投げつけた母。兄は昨夜から何処へ 翌朝、病院に駆けつけると、母はベッドの上で足を投げ出して坐っていた。ウエストにベルトが巻かれベッドに拘束されていたのである。看護師さんが慌ててきて、「お母さまが『お兄ちゃんにお弁当を買いに行く』と言って、ベッドの柵を抜いて先生に投げつけたんです。暴れるのでベッドにくくりつけてすいません」と言われた。母は横断歩道を渡り、すぐ近くのコンビニに行って兄のお弁当を買うのを日課としていた。 医師が来て、「ベッドの柵を抜いて投げつけられたくらいなので、どこも骨は折れていないと思いますよ」と言った。 「先生、お怪我は?」と聞くと、「大丈夫です。素早くよけましたから」と答えた。 医師は、「頭を道路に打ったようで脳の検査をしました。検査の時は大人しくしていましたよ。頭を打った影響で血の塊とかが脳内にできるのは少し後なので、後日また来てください。それより脳の萎縮がひどいですね。アルツハイマーですね」とのことだった。 私は看護師さんに聞いた。「兄は何処にいるんですか?」 「お兄様はお母様が大丈夫なので、午後9時にお帰りいただきました。その時は会計は閉まっていたので、貴方が今支払いをして、お母様と一緒にお帰りください」と、看護師さんは答えた。私はあせった。 「母を少しこの部屋にいさせてください。支払いは混むみたいで、母は待っていられません。兄は統合失調症なのです。家には戻って来ていませんでした。兄のケアマネジャーさんに連絡して探してもらいます」 驚いた看護師さんは、母を預かってくれると言った。 会計のフロアにいる時、母を車ではねた人から電話があった。なんと兄は私の携帯電話の番号を教えていたのだ。お詫びの言葉を繰り返し、今後のことは保険会社から連絡するとのことだった。 私はその人に言った。「横断歩道で母をはねたのは罪ですが、救急車で同行した兄は精神病なのです。昨夜から何処へ行ったか分からない。兄にもしものことがあったらあなたの罪は2倍です」と。 ケアマネジャーさんに連絡すると、兄が帰っているかもしれないから、自宅に行くと言ってくれた。 (つづく)
しろぼしマーサ