米大統領選挙と国際秩序(11月3日)
日本の総選挙も終わり、いよいよ11月5日は米大統領選挙の投票である。これだけ接戦になると事前に結果を予想するのは難しい。 これまでの激戦が示唆していることは、今回の大統領選挙の結果は、米国の世界でのリーダーシップを高めるものでは決してなく、選挙後の米国の分断は深まり、米国の求心力と国際秩序は益々弱体化するであろうということだ。 おそらく米国の有権者の情報源が党派により分断され、ハリス支持者とトランプ支持者で、まったく異なる「事実」に接して、分断的な投票行動をすると考えられる。 だからこそ、史上に残る接戦が繰り広げられても、勝者が激戦を乗り越え、国民を一つにまとめることを望めそうにない。 米大統領選挙では、投票日直前の10月に投票に大きな影響を与える「オクトーバーサプライズ」といわれる事件が起こるものだ。今回、深刻な事件はあったが、その影響は分断的で限定的だった。 10月に出版された著名ジャーナリストのボブ・ウッドワードによる調査報道の著作「War」において、トランプ氏が大統領時代に、コロナ感染を心配するロシアのプーチン大統領に、秘密裡にコロナウイルスの検知機器を送っていたことが明らかになった。彼が大統領退任後も、プーチン氏と頻繁に連絡をとりあっていたことも記されていた。
プーチン大統領はウクライナを軍事進攻し、第二次世界大戦後の国際秩序に挑戦している人物である。第二次世界大戦の悲劇を経験した国際社会は、国際連合を創設し、その基本ルールである国連憲章によって、軍事力による国境の変更や主権の侵害を明確な国際法違反として定めた。 プーチン氏は本来であれば、侵略行為を行った国家に対して、制裁などの措置を行う国連安全保障理事会の常任理事国の指導者であり、その影響は深刻である。 それに対して、バイデン大統領率いる国連常任理事国の米国が、ウクライナへの軍事支援を主導し、ロシアに対して経済制裁を行い、国際秩序を維持しようとしてきた。その最中にトランプ氏の行動が暴露されても、有権者に何の影響も与えなかった。むしろ10月には、全米と接戦州で、トランプ支持は増えている。 民主党のハリス候補の支持が伸びない理由の一つも、国際秩序への挑戦と関連する。昨年10月にイスラエル市民に無差別テロを行った武装勢力ハマスへの軍事作戦において、イスラエル軍は4万2千人以上のパレスチナ人の死者を出している。レバノンの武装勢力ヒズボラにも戦線を拡大し、直近ではイランに報復攻撃を行った。
ロシアのウクライナ侵略に反対するバイデン政権が、イスラエルの軍事作戦を支持していることは、「ダブルスタンダード」とみなされ、アラブ系有権者等のハリス陣営からの離反を招いている。 接戦を制する勝者がどちらになるにせよ、米国の分断と国際秩序の不安定化は止まらないだろうというのが、世界の悲しい現実だ。 (渡部恒雄 笹川平和財団上席フェロー)