台湾オルタナロックのアイコン・拍謝少年(Sorry Youth)が語る、情熱と未来の音楽
台湾語で歌うシンプルな理由
―3rdアルバム『歹勢好勢 / Bad Times, Good Times』から他のミュージシャンとのフィーチャリングが増えたのも、創作の多様化の影響ですか? ジャンジャン:3rdアルバムでは、音楽スタイルを色々と試したい気持ちも出てきた一方、聞き手がどのようにアルバムを一つの作品として聞くのかも考えるようにしたんです。例えばボーカル面だと、僕らは3人全員が歌えるわけですが、それだと単調になってしまうかもしれない。ゲストボーカルを追加することで、アルバム全体のバランスがどうなるのかなども考慮して、より完璧な一つの作品を作り上げようと思って、女性ボーカルとして陳恵婷さんや、メンバーが好きな濁水溪公社の小柯(柯仁堅)さんとのコラボを考えました。 ―コラボの相手は何を基準に選んでいるんですか? ジャンジャン:もちろん初めにメンバーで話し合いますね。そもそもコラボするべきか、コラボするならどの人に声がけをするべきなのか。 チュンハン:基本的には、自分たちで予め作った曲を基にその曲に合う人に声掛けをしています。例えば、このミュージシャンの歌声が好きだからとか、技術面でどうだから、その人とコラボする前提で曲を作ったりすることはないですね。たとえば、濁水溪公社の小柯さんとコラボしたのは、その当時作った楽曲「時代看顧正義的人」が政治的メッセージを持つ曲であることに加え、彼も政治的主張を盛り込んだ曲を作るバックグラウンドを持つ人だったことが理由にあります。 ウェニ:重要なことは、ゲストとして参加する人たちは、単に歌の技術が上手いからというだけでなく、台湾語(中国語に由来する台湾華語ではない)で歌唱するインディーミュージシャンの中で台湾語の音楽の分野で特に自身を表現することに優れた人々に声をかけているんです。 ジャンジャン(提供元:海口味有限公司) ―Sorry Youthの音楽の中では、台湾語という要素が重要な位置を占めていると感じました。台湾語に対する思いを伺いたいです。 ジャンジャン:実はSorry Youthは結成当時、インストバンドだったんです。そのうちバリエーションを増やそうと思ってボーカルのある曲も作るようになっていったのですが、その中で台湾語の持つ音の響きや味わいが自分たちの作る曲に適していると思ったんです。当時は、台湾語で歌うバンドもまだ多くなかったこともあって実験的に試してみたんです。台湾では家庭では台湾語を使って育つ人が多いものの、学校の授業では華語を求められることが多くて、歌謡曲のような要素もある曲の歌という意味では台湾語の方が適しているような気がしたんです。 ー台湾でも最近の若者は台湾語を話さないと聞きます。一方、日本でも多く開催されている台湾映画祭などのイベントでは、台湾語がメインの台湾の映画作品が上映されたりしていて。そういう意味でも、台湾の内外を問わず台湾語に対する意識が高まっているのかなと感じていました。 チュンハン:台湾語を大事にしようとする人たちは当然いて、実際、台湾語での演劇や子供向け絵本が多く作られたり、台湾語翻訳の作品も多く作られるなど台湾語に対する復興のような動きが結構あるんです。海外だと、以前50代くらいの日本人の女性と会ったことがあるのですが、彼女は私たちの曲を聴いて台湾語を学んでいると話していました。 チュンハン(提供元:海口味有限公司) ジャンジャン:台湾の中での台湾語に対する意識というのは最近になって急に高まったものではなく、以前からずっと民族意識の一つとしてあるものだったと思います。自分たちが子供の頃に比べて多くの人が大学進学したり海外へ行くようになったり、インターネットの普及もあったりして、そういう中で台湾がどういう場所なのか、どんな文化を持つのかと振り返るきっかけになることが多くなったのだと思います。その中である種のアイデンティティが生まれ、それが台湾語を含めた民族意識に繋がっている部分もあるのかなと思います。 ウェニ:映画の話で言うと、日本でもたまに上映されるような台湾語の映画は、我々も生まれる前の時代の作品が多くて、昔の街並みが映し出されたり、あるいは戦争が題材の話だったりすると思うのですが、映画だとそういう世界観や主人公に没入できて、メッセージ性を感じられたりもしますよね。自分たちも台湾語の曲を作って、それをファンが聞いてくれて台湾語で作られた世界に没入し、皆に影響を与えられたらいいなと思っています。 ジャンジャン:僕らは映画も好きなので、映画監督に自分たちの楽曲MVを撮ってもらったりするんです。日本のリスナーは歌詞も大事にしていると思いますが、MVは日本語の歌詞もついているのでぜひ曲の世界観を感じてほしいですね。 ―皆さんは音楽を通じて、台湾語を広めたいという思いを持っているのでしょうか? チュンハン:いいえ、僕らは台湾語の教師でもなんでもありませんからね。ただ、Sorry Youthの曲をきっかけに自分でも台湾語を学ぼうみたいなことがあればいいのかなと思っています。 ジャンジャン:例えば若者がドライブするときに、日本ならもしかしたらくるりなんかを聴きながら車で歌ったりすると思うんです。僕らが若い時もそうで、台湾語の曲を車で皆で歌ったりしました。今でも曲を聴けば当時のことを思い出せます。そういう記憶をたどる要素の中の一つになるものとして、Sorry Youthは台湾語での曲を残したい。僕らが台湾語で歌うのは、たったそれだけのシンプルな理由です。