MotoGP日本人ライダーの戦い【第13戦サンマリノGP】右手骨折から3週間。Moto2小椋藍、懸念を払拭する今季3勝目でランキングトップに浮上
MotoGPサンマリノGPは、イタリアのミサノ・ワールド・サーキット・マルコ・シモンチェリで開催される。2024年シーズンは、サンマリノGPの翌々周(9月20日~22日)にスケジュール調整されたカザフスタンGPが中止となって、代わりにミサノ・サーキットでエミリア・ロマーニャGPが行われることになった。このため、ミサノ・サーキットで2連戦というスケジュールである。 【画像】ハ第13戦サンマリノGPの模様をギャラリーで見る(5枚) このミサノ・サーキットに関して、ぜひとも触れたいことがある。メインエントランスの前の通りに、2001年WGP 250ccクラスチャンピオン、加藤大治郎の名前がつけられているのだ。道の中央分離帯に立つ、通りの名称が書かれた標識にも「Daijiro Kato」という名前が刻まれている。 そして今回、Moto2クラスで優勝を飾った小椋藍(MTヘルメット – MSI)が、加藤大治郎が2001年日本GPで優勝したときに使用した日本国旗を手に、ミサノ・サーキットを走った。 文/Webikeプラス 伊藤英里_Eri Ito
Moto2小椋藍が優勝。“乗り切った”山場
チャンピオン争いを展開する小椋藍(MTヘルメット – MSI)にとって、オーストリアGPで負った右手の骨折は懸念材料だったはずだ。右手が回復するまで、いかにランキングトップのセルジオ・ガルシア(MTヘルメット – MSI)とのポイント差の拡大を抑えるかが重要、だったのではないだろうか。 しかし、どうだろう。オーストリアGPを欠場し、復帰したアラゴンGPでは痛み止めを使用しながら力走を見せ、8位でゴール。そして、サンマリノGPでは今季3勝目を飾って、ランキングトップに躍り出たのだ。 金曜日の時点で、右手の具合は「痛くて攻めたりブレーキングできないわけじゃないけど、まだ忘れて乗れるほど痛みがなくなってはいない」という状態だった。この時点では、土曜日以降で痛み止めを使用することも視野に入れていた。だが、最終的に、小椋は土曜日も日曜日の決勝レースも、痛み止めを使わずに走った。土曜日になって状態がいい方向に向かったからだ。 「土曜の朝から手の感じがすごくよかったし、昨日からよく走れていたので、痛みよりも感覚重視で痛み止めを飲まずにいきました」 小椋は決勝レースを1列目3番手からスタートすると、前半はトニー・アルボリーノ(エルフ・マークVDSレーシングチーム)とアロン・カネト(ファンティック・レーシング)に次ぐ3番手を走り、アルボリーノが後退してからは、トップのカネトにぴたりとつけた。タイヤを温存し、終盤に攻める。それが、小椋が描いていた展開だった。 「トップに近いところで走っていれば、タイヤの減り方はトップと同じか、それよりもセーブできます。相手の走りも見られますしね。レース展開的にはうまくいったかなと思います」 カネトを逃さずに追従していた小椋は、残り4周でカネトをとらえた。このタイミングも、絶妙だった。そして、トップでチェッカーを受けたのだった。小椋のタイヤマネジメントの強みを生かしたレースであり、完治していない右手の影響を感じさせないレースでもあった、と言えるだろう。 「残り2周で抜くと、相手も(終盤なので)最後の力を振り絞ってやり返される可能性があるな、と思ったんです。僕の方がいいペースなら、残り4、5、6周くらいで前に出て、少し攻めて、ギャップを作るほうが利口かな、と」 一方、小椋とタイトル争いをしているガルシアは、サンマリノGP前から抱えていた右肩に加え、金曜日に喫した激しい転倒により、左肩にも負傷を負っていた。ガルシアは24番手からスタートして、12位でゴールし、獲得したのは4ポイントにとどまっている。 この結果、小椋がチャンピオンシップのランキングトップに浮上し、ランキング2番手に後退したガルシアとの差を9ポイントとした。次戦エミリア・ロマーニャGPには右手もさらに回復するだろう。小椋は一つの山場を乗り切った。ガルシアの状況もあったとはいえ、山場をものともしなかった、と言えるかもしれない。 今季初めてランキングトップに浮上した小椋に、終盤を迎えつつあるシーズンにおいて、チャンピオンを獲得するために、チャンピオンシップを戦う上で何が重要だと考えているのか、と聞いた。 小椋は「金曜、土曜のレースまでの組み立てと、それをできる限り毎戦やる、ということですね」と答えた。 「チャンピオンシップ(のことを考えなければならない段階)となってくればくるほど、スピードがあれば抑えて走れるようにもなります。例えば僕がぶっちぎりで速かったら、抑えて走っても2位になれる。スピード次第だと思いますね。自分が有利になるように、僕はできるだけそういうところを詰めていく。そういうレースにしていけたらいいかな、と思います」 チャンピオンシップを戦うには安定した結果が何よりも求められる。速さがあれば、結果の選択肢にも幅が生まれる。小椋は金曜、土曜で速さを積み上げ、決勝レースでその速さを結実させるレースを、1戦1戦、繰り返したいと考えている。 そして、今回のレースのチェッカー後、上田昇さん(元WGPライダー)から小椋に、加藤大治郎が2001年日本GPで優勝したときに使った日章旗が手渡された。小椋はその日章旗とともに、クールダウンラップを走ったのだった。