「出世のチャンスじゃないか、カネをもらうってことは」田中角栄が霞が関にカネを配っていた時代の“官僚の常識”〈拒否した元検事の告白〉
「もちろん、当時は許可が必要であるということもありましたし、その前に、職務上の職務をしている人間に、現金を渡すというのは、額は小さくても賄賂に当たりますので、こんなカネは絶対に受け取っちゃいけない」 堀田さんは、田中首相からのカネを大使館幹部に突き返すにあたって、他省庁から大使館に出向してきている同僚に「こんなカネ、いろんなことでもらってるのか」と、それとなく尋ねてみた。 すると、どうやら、それは当たり前の“しきたり”となっているようだった。政治家が官僚にカネを渡すことがあるというのだ。 総理大臣になる前、田中は1962年に大蔵大臣に就任した。高等小学校卒の学歴しかない田中が、東大法学部卒の大蔵キャリア官僚を掌握し、自在に操ったといわれ、その実績が田中の上昇を後押しした。 大蔵省(現・財務省)で政界との交渉を長年担当した元キャリア官僚が筆者(村山)に語ったところによれば、予算編成が山場を迎えた暮れのころ、田中首相から来たとされるカネが職員に配られ、自身も受け取ったことがある、という。 「ロッキード事件が起きてからは知らないが、角さんは大蔵大臣を辞めたあとも毎年、欠かさず、カネを持ってきていたようだ。大蔵省だけでなく関係した各省に配っていたのではないか。田中さん以外の政治家で官僚にカネを配ったという話は聞いたことがない」 堀田さんは、そうした“しきたり”を非難したりはしなかったが、「私はもらわない」と同僚に言った。 すると、経済官庁出身の同僚は次のような言い方で堀田さんを批判したという。 「自分の出世のチャンスじゃないか、カネをもらうっていうことは。そこを喜んで、もらって、それを利用して政治家と結びついていくのが官僚としての仕事をしやすくというか、仕事の範囲を広げることになる。(中略)それを返すっていうのは、人間として馬鹿であると同時に、そんなところで逆らって自分の職務を放棄するのか」 役人というのは自分の出世のためなら何でもチャンスをつかみ、何をしてもいい、そんな考え方を持っていると知って、堀田さんは「そっちのほうが私はショック」だった。 この2年後に検察が田中前首相を逮捕したときの容疑は、まさに外国為替管理法違反だった。 ◆ 本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 ロッキード事件捜査 カミソリ検事が明かした異常な命令 」)。 記事全文 では、堀田氏が、P3C疑惑を解明させたくない「力」が当時の特捜部に働いていた状況について、詳細に証言している。
村山 治,奥山 俊宏/文藝春秋 2024年11月号