<21世紀枠チカラわく>統合校に夢もユニホームも継承 いわき海星 選抜高校野球 /8
ストライプの上下。胸に躍る「Kaisei」と「IWAKI」の文字――いわき海星を率いて14年目の若林亨監督(54)は、近くの小名浜との学校統合で4月から「小名浜海星高校」となるのを控え「ユニホームのデザインは変えられない」と、心に決めた。 少子化の影響で、全国的に公立学校の統廃合が進む。昨年まで54校を数える21世紀枠選出校の中でも、既に2016年のセンバツに出場した小豆島が同じ島内の土庄と統合され、小豆島中央に名称を変えている。 いわき海星が21世紀枠に選ばれたのは13年。東日本大震災から2年後のことだった。海べりの学校は津波で建物1階部分が水没し、グラウンドは海の砂やがれきで埋まった。野球道具も流された。震災の翌月に入学し、センバツ出場時に主将だった坂本啓真さん(25)は「自分の高校野球は、がれきの片付けから始まった。それが甲子園に出られるとは……。びっくりした」。 あこがれの舞台では、同じく21世紀枠で選ばれた遠軽(北海道)と対戦した。両チームとも攻守にきびきびとした動きを披露。坂本さんが「集中すると時間ってこんなに速く感じるものか」と思った試合は、わずか1時間16分でゲームセット。0―3で敗れはしたが、1分差の大会史上2番目の短時間試合という「記録」を残した。 卒業後、福島県いわき市内の港湾運送会社に就職した坂本さんは18年7月21日、市内の球場の観客席にいた。目の前では夏の甲子園を目指す福島大会準決勝。母校の後輩が県内では無類の強さを誇る聖光学院と接戦を演じていた。「自分たちの最高は県ベスト16。それが4強入り。わくわくした」と振り返る。 グラウンドでプレーしていた当時主将で4番の水野太智さん(20)は「自分たちでも『すごいなあ』って。一戦必勝の気持ちで戦っていた」。同校専攻科を経て4月からタンカーの乗組員になるという水野さんは「(13年の)センバツの試合は見ていない。元々希望した学校ではなかった」と言うものの、九回に1点差に詰め寄る、坂本さんいわく「いわき海星らしい最後まであきらめない、泥くさい野球」を見せた。 「以前はチーム名の分かるユニホームやジャンパーをさっさと着替えていた生徒たちが、力を付け、センバツに出てその姿で街中を堂々と行くようになった」と若林監督は笑う。統合を前にし、08年に就任して以降のさまざまな思いが頭をよぎった。水産高校ならではの航海実習を抱えながらの部活動、そして大震災、温かな支援、センバツ出場、甲子園に近づいた夏--。「このユニホームでないと伝えられないものがある」が、決心の理由だ。「小名浜高校には野球部がないので」とも付け加えた。 現役の部員には坂本さんの弟の晃雅選手(16)もいる。部員たちは校名が変わることに「さみしい」と口をそろえるが、普通科と商業科が加わることで田中奨悟主将(17)は「部員が増え、ライバルが増えれば、より成長できるはず」と前向きだ。その先に、変わることのないチームの夢である「甲子園1勝」があるのだろう。【山口敬人】 ◇学校統合 文部科学省の統計によると、2020年度の高校の生徒数は309万2000人。1990年度には579万人を数えた。これに伴い学校数も5518校から4874校に減った。21世紀枠選出校の中では、17年の第89回大会の不来方(岩手)も盛岡南との統合が岩手県教委によって計画されている。今大会の21世紀枠の北信越地区候補校に、昨春、富山北部に統合された富山北部・水橋(富山)の連合チームが選ばれ注目された。これまでにも学校統合に関わる連合チームとして07年の第79回大会で豊後大野連合が大分県、17年の第89回で彦根翔陽・彦根翔西館が滋賀県のそれぞれ推薦校になった例がある。