エネルギー関連のCO2排出量は「今年がピーク」、減少に転じてもまだ喜ぶべきではない
エネルギー転換を加速させるために必要なことと、政府の優先事項はますます乖離している
だが、エネルギー転換が思うように進まない理由がここにある。中国はエネルギー転換に不可欠なクリーンテックの多くを製造・輸出する主要国としての地位を確立している。にもかかわらず、多くの国が国家とエネルギーの安全保障や国内産業と雇用の保護を念頭に中国からの輸入に消極的で、これによりエネルギー転換が緩やかで高価なものになっている。 また、太陽光発電装備やバッテリーのコストは急速に下がっているものの、水素では状況は異なる。遠洋海運や航空など、電動化が難しいセクターで脱炭素化を進めるには水素と水素誘導体が必要だ。昨年、2050年までに温室効果ガスの排出を正味ゼロにするための道筋をモデル化したところ、今世紀半ばまでに世界のエネルギー需要の約14%を水素でまかなう必要があることが判明した。今年の見通しでは、この数字はわずか4%だ。 それでも4%というのは大きい。これは、水素製造に数兆ドル、パイプライン建設に数十億ドルの資金を投じるのに相当する。だが、こうした動きは必要とされるもののごく一部にすぎない。現状では、市場と規制の枠組みが水素の推進に適していない。水素が広く使用されるようにするためには、政府はインセンティブや義務化、炭素を排出した企業にコストの負担を求めるカーボンプライシングなど、あらゆる政策手段を駆使しなければならない。 エネルギー転換を加速させるために必要なことと、政府の優先事項はますます乖離している。資金はネットゼロ達成より軍事や国家安全保障に流れている。一般家庭が数年にわたってインフレに苦しんでいるとき、政治家は国民の税金をエネルギーインフラに注ぐという大胆な決断を下すことに消極的だ。 最近、多くの国でネットゼロの目標から逸脱する傾向があるにもかかわらず、米国のインフレ抑制法(IRA)のような重要な法案を提出する議員らもいる。パリ協定で掲げられた世界の平均気温の上昇幅を「1.5度」に抑えるという目標値を超えつつある今、エネルギー関連の脱炭素化を一層加速させるために、焦点を改めて絞り、各国が足並みを揃えて取り組む政策の推進が必要だ。
Sverre Alvik