〈エネルギー運搬船受注で日中韓の仁義なき戦い〉中東市場で韓国・中国に押されるも、“逆転の一手”となる日本の技術とは?
水素運搬船の実用化を後押しする動きとして、川崎汽船・商船三井・日本郵船の海運大手3社は23年9月、水素関連企業「日本水素エネルギー」(※川崎重工業・岩谷産業の共同出資)の子会社「JSEオーシャン」と、水素運搬船の効率的な運航や、水素の海上輸送網の構築で協力していく方針を発表した。 こうした中、UAEが水素運搬船の調達を本格化させる可能性がある。UAEの「国家水素戦略2050」では、水素の年間生産量が31年に140万トン(グリーン水素100万トンとブルー水素40万トン)、40年に750万トン、そして50年に1500万トンに増加する計画である。UAEは水素を国内供給だけでなく、新たな資源収入源として積極的に輸出すると予想されるため、運搬に不可欠な水素輸送船を数多く確保する必要が出てくる。
水素事業の道筋を作るチャンス
川崎重工業はこれまでADNOCとの関係強化を図ってきた。両社は23年4月に国際的な液化水素供給網の構築に係る戦略的協力協定を締結した。同年8月には、水素運搬船「すいそふろんてぃあ」がアブダビのザイード港に入港し、見学会が開かれた。日本政府としても、川崎重工業・ADNOCの水素協力をUAEにおける日本のプレゼンス強化の手段として捉え、重点的に支援していくことが大切であろう。 水素事業の現状は割高なコストが障害となり、普及には多くの時間を要す。ただ、UAEはこれまで他の中東諸国に先駆けて、太陽光・原子力といったクリーンエネルギーを導入してきた経緯がある。また23年にCOP28議長国を務め、世界の脱炭素政策を主導していく役目も担う。 これらの点から、UAEが豊富な資金力を活用して、水素運搬船が実用化された後、同じく水素輸出を目指す他国に先行するため、一早く造船契約に動くかもしれない。 日本にとって見れば、UAEとの水素協力は水素運搬船の導入実績をつくることができる好機である。過去、韓国が国家主導型のビジネス活動や大統領のトップセールス外交を通じて、UAEの原発建設契約を09年に受注し、同国初の原発輸出を成し遂げた。その後、韓国はUAEでの原発建設の成果を携えて、24年7月にチェコの原発増設事業で優先交渉権の獲得に成功するに至った。 中東の新造LNG運搬船の造船契約を韓国・中国が総取りし、中東地域で両国の存在感が益々強まる状況下、日本も企業単独ではなく、官民一体で経済外交をさらに展開し、次世代エネルギー運搬船の販路の確保に尽力すべきである。
高橋雅英