【社説】企業献金の禁止 説得力欠く首相の反対論
政治資金規正法の再改正が衆院特別委員会で議論されている。与野党から9本の法案が提出された。 焦点は企業・団体献金の是非だ。禁止を訴える野党に対し、自民党はここにきて反対姿勢を強めている。 国会が棚上げを続けた30年来の宿題である。過去に学ばない者は過ちを繰り返すという。これまでの経緯を踏まえて結論を出すべきだ。 発端は政官財の癒着を露呈したリクルート事件だ。金権腐敗政治を改めるために与野党は1994年、政治家個人への企業・団体献金を禁じ、税金を原資とする政党交付金の導入を決めた。 政党への献金は5年後に見直すことにしたが、手つかずのまま現在に至る。 当時の議論に基づき禁止を主張する野党に対し、石破茂首相は「政党交付金を導入する代わりに、企業・団体献金が廃止の方向となった事実はない」と衆院予算委員会で述べた。本当にそうか。 当時、自民党総裁として細川護熙首相と政治改革をまとめた河野洋平氏は「激変緩和のため、5年後に見直しという条件で企業献金を廃止することで合意できた」と衆院の聞き取りに証言している。 さらに「公費助成が実現したら企業献金は廃止しなきゃ絶対におかしい」と語っている。これが政界の共通認識ではなかったか。 石破首相が否定するのであれば、河野氏や細川氏を国会に参考人として招致し、直接聞いてみるといい。 首相は反対の根拠に憲法も持ち出した。「企業も表現の自由は有している」として、企業・団体献金の禁止は表現の自由を保障する憲法21条に「抵触する」と述べた。 3日後に「違反とまでは申しません」とトーンダウンさせたものの、憲法との関連を議論しなくてはならないと強調している。 首相発言のよりどころは、企業の政治活動の自由を認めた70年の最高裁判決だ。 この判決に関し、93年の衆院特別委員会に参考人として出席した元最高裁長官の岡原昌男氏は「自民党の中でルーズに読んで企業献金は差し支えない、なんぼでもいいと解釈しているが、あれは違う」と批判している。 判決は、巨額の献金が金権腐敗政治を招くとの指摘を踏まえ、弊害に対処する方法は「立法政策」に委ねるとの判断も示した。 首相の論法は、判決の都合の良い部分だけを引用しているように聞こえる。 野党が「多額の献金は政策をゆがめる恐れがある」と訴えても、首相はかたくなに否定するばかりだ。 このやりとりに国民はうなずけるだろうか。11月の共同通信社の世論調査では、7割近くが「企業・団体献金を禁止すべきだ」と答えている。 これ以上の先送りは許されない。与野党は民意に沿って合意形成すべきだ。
西日本新聞