世界中で起きているEV火災…政府・メーカーの緩い管理の強化を
EVの安全管理を総まとめ 1台が爆発すると連続して爆発する熱暴走につながりやすい 90%の充電率規制は実効性がなく、不安をあおるだけ
<キーワード:リチウム電池 リチウム電池は世界で最も軽い金属であるリチウムで作られた電池だ。電気自動車(EV)はもちろん、スマートフォン、ノートブック、ワイヤレスイヤホン、補助バッテリー、掃除機など、私たちが毎日使う製品のなかにはリチウム電池が入っている。あまりにも用途が広いため、電池の原料であるリチウムは「白い石油」「白い黄金」と呼ばれる。リチウム電池は再使用が可能かどうかによって「一次金属電池」と「二次イオン電池」に分かれる。リチウムという金属が入った一次電池は、再使用ができない代わりに、充電することなく5~10年間使用できる。二次電池は、金属の代わりに化学的に安定したリチウム混合物を用いており、軽くて再充電が可能だ。一次電池は1970年代から本格的に開発されたが、商業用の二次電池は1991年に日本企業のソニーによって最初に開発された。2000年代に入ると世界中で使われ始め、韓国では2010年ごろ、サムスン電子の携帯電話ギャラクシーが登場してから本格的に使われた、比較的新しい装備だ。> ポルトガルのリスボンのウンベルト・デルガード国際空港近くのレンタカー駐車場で16日(現地時間)、車両200台が全焼する大規模火災が発生した。「ポルトガル・レジデント」などの現地メディアは、駐車していたテスラ製の車が火元になったと推定されると報じた。韓国でも、1日の仁川(インチョン)の青羅(チョンラ)地区でのベンツのEVや、17日の京畿道龍仁(ヨンイン)のテスラによる火災事件が話題となり、EVのバッテリーの安全性に対する懸念が広がっている。 ソウル市は、共同住宅の地下駐車場には90%以下に充電を制限したEVのみ出入りさせるよう勧告することにするなど対策を設けた。現代自動車グループは、バッテリー保守システム(BMS)技術によって過充電にともなう火災の可能性はほとんどないと主張している。それでもEVのバッテリーに対する恐怖は容易にはおさまらずにいる。大韓化学会会長を務めた西江大学化学・科学コミュニケーション学科のイ・ドクファン名誉教授の助力と資料調査などを通じて、EVのバッテリーであるリチウム二次電池について、気になる点を整理してみた。 ■EVのバッテリー火災はなぜ発生するのか EVのバッテリーに用いられるリチウム二次電池は、陽極(+)と陰極(-)、両極を遮断する分離膜、イオンの移動を助ける電解液で構成される。充電時はリチウムイオンを陽極から陰極に、放電時には陰極から陽極に移動させるため、不安定な状態になるが、過充電や過放電状態になると不安定性が強まる。リチウム電池は陽極と陰極が接触すると火花が散るショート(Short circuit)現象が発生し、瞬時に温度が1000度以上に急上昇する熱暴走につながり、電池が爆発する。また、二次電池は熱・水分・外部の衝撃などに脆弱だが、EVはでこぼこ道を走りぶつかりやすい。管理をしなければホコリも入りやすいため、火災の危険性は常に存在する。 ■それでも、EVから出た火は水で消せるのではないか EVのバッテリーは、車体下の奥深いところに、金属やプラスチックの箱の内部に密閉されている。外部から消火器で水をかけても消すことはできない。煙が出たり火花が散り始めた場合は、可能な限りすぐに誰もいない場所に車を止めて逃げるしかない。私たちが日常的に使用する乾電池の大きさはAAとAAAだが、EVの電池の大きさはD(長さ58.0ミリメートル、直径33.0ミリメートル)程度。そのような電池が数百個も積まれている。電池1つが爆発すれば横にある電池も続けて爆発し、これを熱暴走と呼ぶ。ソウルの地下鉄の大峙(テチ)駅の事故のときは、熱暴走が起きるまでに時間が少しかかり、その間に人々が電池をすぐに移動して水槽に入れて火を消した。しかし、多くの場合EVのバッテリーは運転席と分離されているため、走行中に火災が発生しても、運転者が短時間に火災を識別することは難しい。運転者が火災状況を早期に認識できるよう、EVメーカーがバッテリーの構造を変更すれば、大火災のリスクを減らすことができる。 ■マンションの地下駐車場に設置されたEV充電器も危険なのか 地下に設置されたEV充電器の問題は政府も深刻に考えなければならない。地下駐車場で火災が発生した場合は、現時点では対策がない。まず、消防車のような消火設備が地下駐車場に入ることができない。また、EV火災の最大の特徴は、蒸気のような気体状態の化学物質であるヒューム(fume)が出ることだが、これは一般の火災の際の煙とは違う。毒性がきわめて強く、密閉された地下駐車場の特性上、さらに危険だ。 ■EVの充電率90%制限対策、実効性はあるか 韓国火災保険協会の資料によると、ドイツのクルムバッハ市とレーオンベルク市は2021年、地下駐車場へのEVとハイブリッド自動車の駐車を禁止した。韓国の場合、ソウル市が来月末までに「共同住宅管理規約準則」の改正を通じて、共同住宅の地下駐車場には充電率を90%以下に制限したEVのみ入れる政策を推進することを9日に発表した。しかし、EVの完全充電は火災の原因とは直接的な関係はない。二次電池の火災が起きるケースは大きく分けて2つある。電池の製造時から分離膜が毀損している電池の欠陥か、外部からの衝撃で分離膜が裂ける損傷だ。いずれも二次電池の完全充電とは関係なく火災が起こりうるという点から、完全充電の規制は意味がないとみられる。また、二次電池バッテリーには管理システム(BMS)が装着されており、過充電や過放電を自動的に遮断する。このシステムでは、ほとんどのEVは充電率がすでに90~95%に設定されている。未検証の火災予防法は、むしろEVの所有者の不便と不安を高めることになりうる。 むしろ、EVの管理を強化する必要がある。食品医薬品安全処は市場で随時抜き打ち検査を行い安全性を監視しているが、その一方で工業製品の管理はきわめて緩い。EV充電設備や充電器は、産業部や地方自治体が定期的に検査を強化する必要がある。駐車場だけでなく、電子機器をそのまま捨てた場合、ゴミ埋立地でも爆発事故や火災の危険がある。政府レベルでリサイクルのための制度的枠組みを作る必要があり、EVも製造会社が徹底的に管理しなければならない。 ■危険なリチウム電池に代わる安全な代案技術はないだろうか 二次電池の場合、電流や電圧、温度をセンサーで測定して過充電や過放電を防ぐバッテリー保守システムという装置を利用して火災のリスクを減らすが、限界がある。二次電池の代案として取り上げられるものの一つが、リチウムイオン全固体電池だ。リチウムイオン電池は内部に電解質の液体が入っているが、それをすべて固体にして液体の爆発の危険性を減らせば、EVの火災はなくなるという予測に基づいている。しかし、技術開発には途方もない努力と投資が必要だ。問題が生じたとき、代替材が非常に軽く代案として取り上げられがちだが、ある技術をより安全に使う方法を知らせ、学ぶことが必要だ。EVの所有者に必須の安全教育を行うことも一つの方法になるかもしれない。 クォン・ジダム記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )