『光る君へ』吉高由里子が“母”として見せた今までにない切なさ 賢子役・梨里花の名演も
『光る君へ』(NHK総合)第37回「波紋」。まひろ(吉高由里子)と道長(柄本佑)の親密さがうわさになる中、中宮・彰子(見上愛)はまひろの書いた物語を冊子にして一条天皇(塩野瑛久)への土産にしたいと言い出した。そこでまひろをはじめ、女房たちは力を合わせて豪華本を制作することに。そんな折、まひろは久しぶりに父・為時(岸谷五朗)と娘・賢子(梨里花)の顔を見るために里に下がる。 【写真】賢子(梨里花)の涙の叫び 「五十日の祝」の場での一件により、倫子(黒木華)は「藤式部」の名を聞くと表情に翳りが見られるようになり、赤染衛門(凰稀かなめ)は噂の中心にいるまひろに「お方様だけは傷つけないでくださいね」と冷静に忠告しながらも、まひろや道長に鋭い視線を向けるようになった。彰子が心の底からまひろを信頼していることもあって、天皇に献上するための冊子を作る場面では和気あいあいとした雰囲気も感じられたが、土御門殿に流れる空気には常に緊張感が漂っていた。 そんな中、まひろは久しぶりに家族と再会する。しかし、藤壺に上がる際、心残りのある別れ方をしてしまった娘・賢子との再会はなんともぎこちないもので、結局、母と娘は苦い思いをすることになった。 公式サイト内のキャストインタビュー動画「君かたり」で、まひろを演じる吉高は、母として娘に会いたいという気持ちはあったが、どうやって娘と距離を縮めればよいかわからず「会いたい気持ちよりもやっぱりどきどきはしていたと思いますね。相手も会いたいと思ってくれていたらいいなって思って帰ったと思うんですけど」とコメント。この心情は、屋敷に戻ってきた賢子に「しばらく帰れずにごめんなさいね」と微笑みかける姿によく表れている。まひろなりに親しげな様子で賢子に向き合っていることは伝わってくるのだが、どこか他人行儀に映る。演者である吉高の距離の取り方が見事だ。 一方の賢子もまた、まひろにそっくりな、なんとも気まずい距離を取るのが興味深い。祖父である為時やいと(信川清順)たちには無邪気な笑顔を見せるが、まひろへは「お帰りなさいませ、母上」「内裏でのお仕事、ご苦労さまにございます」と丁重に挨拶してみせた。とはいえ、賢子はまだまだ子どもだ。食卓を囲む場面では一切母の方を見ず、むすっとした表情を浮かべたまま過ごす。しかし夜中に、筆を取る母の姿を遠巻きに見つめる面持ちにははっきりと寂しさが感じられた。賢子を演じる梨里花が醸し出すやるせなさから、自分を置いて藤壺へ上がったまひろに対する複雑な胸中がひしひしと伝わってくる。 まひろが土御門殿に戻ると聞いた賢子は、「一体何しに帰ってこられたのですか?」と冷たく言った。 「母上はここよりあちらにおられる方が楽しいのでしょう?」 「母上が嫡妻ではなかったから、私はこんな貧しい家で暮らさなければならないのでしょう?」 どのように接すればよいか分からずとも、娘に会いたい気持ちは本当だったはずのまひろにとって、賢子の反応は胸をえぐるものだったに違いない。「すっかり嫌われてしまいました」という悄然とした口ぶりと後ろ姿はとても切なかった。 吉高は、まひろと賢子について「さみしい気持ちがお互いの距離を離しちゃった関係性」だと述べている。「ギューってね、まひろも『ごめんね』ってギュッてしてあげられたらよかったんだけど、そうもいけないタイプなんだろうね、まひろもね」と振り返り、「お互いのさみしさが、2人の再会の溝が埋まらなかった感じになっちゃった日かな」とも語った。 実の娘である賢子との関係をなかなか深められないまひろは、彰子の前や『源氏物語』の執筆に向かう時とは違って、自信のない印象が強い。ただ、この親子の溝をうまく埋められずに苦悩する姿、吉高のさりげない表情や佇まいに表れる思い悩む様には人間味がある。人生うまくいくことばかりではないと思わせる出来事を前に、まひろが動揺したり困惑したりする様を吉高がごく自然に表すからこそ、彼女の一喜一憂が胸に響く。 今後の親子関係にほんの少しだけ期待があるとすれば、「母上なんか大嫌い!」と言い捨て屋敷を飛び出した賢子が涙を流していたこと。乙丸(矢部太郎)が心配そうに見つめる中、泣いていた賢子。その姿は直前に言い捨てた言葉とは裏腹にとても悲しげで、憤りから涙を流しているというよりも素直な寂しさを覚えた。まひろと賢子がお互いの素直な気持ちを伝えられる日が来ることを願いたい。 第37回のタイトルは「波紋」。あらゆる意味が込められていると思うが、物語終盤でのまひろと道長のやりとり、特に道長が発した台詞に心が動揺した視聴者は少なくないはずだ。道長は、内裏の藤壺に盗人が押し入った時、彰子のもとへ駆けつけたまひろへお礼を言う。まひろと距離を縮め、「お前もよくやってくれた」「これからも中宮様と敦成親王様をよろしく頼む」と言い伝える道長は、こう続けた。 「敦成親王様は次の東宮となられるお方ゆえ」 第36回で、虚ろな目をして「皇子であったか……」と呟いた道長の姿が思い出される。「次の……」と言葉を詰まらせるまひろは道長の変化を感じ取ったに違いない。きな臭い空気が漂い始めている。 参照 ※ https://www.nhk.jp/p/hikarukimie/ts/1YM111N6KW/blog/bl/pyVjX9MK7y/bp/pwn95kPaMJ/
片山香帆