英国の詩人が愛した川「チョーク・ストリーム」、健全な再生に欠かせない「秘訣」とは
世界中で300に満たない、透明度抜群で釣り人も憧れる穏やかな「白亜の小川」
英国南部には、白い石灰岩から湧き出た水を源とする「白亜の小川(チョーク・ストリーム)」が多くある。湧水を源とし、細かい砂や泥がほとんど流れ込まないため、水族館の水槽のように澄んでいる。水中を泳ぐ魚が宙に浮いているように見えるほどだ。 ギャラリー:透明度が際立つ「チョーク・ストリーム」 チョーク・ストリームは世界中で300に満たないが、そのほとんどがイングランドを流れている。これらの川が流れているのは、人里離れた荒野ではない。釣り人でジャーナリスト兼作家のチャールズ・レンジリー=ウィルソンは、チョーク・ストリームを「人の暮らしとともにある川」と呼ぶ。「家のすぐ近くで触れることのできる美しい自然なのです」と彼は言う。「そして、そうだからこそ危機に直面しています」 ここ数年間、チョーク・ストリームを擁する地域のすべてで河川を保全する団体が発足してきた。パンデミックのロックダウンで在宅を余儀なくされた多くの人々が、地元の川の価値に目覚め、環境改善への機運がこれまでになく高まったのだ。 20年ほど前から、保全団体や水道会社、政府機関が、白亜層からの取水量を減らす努力を続けている。貯水池、淡水化プラント、家庭の水道メーター、水の移送網の設置など、数十年計画での大規模な取り組みが進行中なのだ。川はしだいに、本来の姿を取り戻しつつあると言えるだろう。
健全な川の環境に欠かせない三つの要素
イングランドのチョーク・ストリームを再生する方法をほぼ独力で考案した人物が、サイモン・ケインだ。川を再生する会社を設立したケインは、健全な川の環境に大切な三つの要素は、「傾斜、流れの速さ、湾曲」だと言う。 過去数十年間で彼の会社は数々の川を健全な形に戻してきた。堰やダムを取り除き、流れに変化をつけ、植物や無脊椎動物、魚のさまざまな生息地を作り出すために曲がりくねった形にした。 川の再生に取り組む多くの人々が、ケインのやり方を踏襲している。その一人であるレンジリー=ウィルソンは、ケインとともにノーフォーク州北部を流れるナール川の再生に取り組んだ。 ある日の午後、私はレンジリー=ウィルソンと一緒に釣りに行った。再生工事を行ってから2年に満たない新しい区間にやって来ると、川はにぎやかな水音を響かせて流れていた。 30秒もしないうちにレンジリー=ウィルソンが天然のマスを釣り上げた。マスは次々とかかる。どれも小さく200グラムほどしかなかったが、その時、彼はもっと良いものを見つけた。 「おっ、いいマスがいる。あそこの土手の下に隠れるつもりだな」。毛針を着水させると、釣り竿がしなった。彼はマスを浅瀬に引き寄せる。彼が再生させた川は、多くの命であふれていた。
文=アダム・ニコルソン(作家)