考察10話『錦糸町パラダイス』家族ではないけれど大切な関係
蒼(岡田将生)の思いがけない過去が明らかに。ドラマ24『錦糸町パラダイス~渋谷から一本』(テレ東金曜深夜24時12分~)10話を、ドラマを愛するライター・釣木文恵と、イラストレーターのオカヤイヅミが振り返ります。
愛のない本当の家族、見守り続ける他人
このドラマでは、中心となる「整理整頓」の大助(賀来賢人)、裕ちゃん(柄本時生)、一平(落合モトキ)の家族は登場しない。けれども大助は父からこの清掃会社を継いでいるし、その父が息子を心配していたことを人づてに聞いて、その存在は感じられる。母のためにフィリピンに行く決意をしたミカ(矢野あゆみ)や、会社ではセクハラ上司とうとまれているが母にとってはいい息子である会社員・東海林(忍成修吾)、娘の死の悲しみを抱え続ける夫婦(板尾創路、菜葉菜)ら、家族が描かれる場面もたくさんあった。 蒼(岡田将生)に至っては、家族どころか仲間もおらず、いつも一人で行動している。唯一彼が交流を重ねているのが、293年生きているらしい駄菓子屋のまっさん(星田英利)だ。10話で、地元FM「星降る錦糸町」のパーソナリティ・なみえ(濱田マリ)が蒼の母であること、彼女が幼い蒼を虐待あるいは育児放棄していたことが明かされた。母の暴力から、あるいは同級生のいじめから守ってくれたまっさんを信頼し、たったひとつのよすがとしてまっさんの元を訪れるようになった蒼。しかし、蒼が中2のとき、まっさんはこつ然と姿を消してしまう。 「家族じゃねえんだけどよぉ、死んだら知らせてほしいヤツがいて」(9話) 長く生き過ぎたあまり、たくさんいた家族も誰ひとりいなくなった。そんなまっさんが最後に死を知らせたいのは蒼だろう。本当の家族であっても、愛情が通い合わない関係。家族でなくてもお互いに気にし合う関係。人と人とのさまざまな距離感が、このドラマにはある。
人に寄り添い続けるそれぞれの形
7話で、同級生からいじめに遭っていた谷口(井上涼太)に、まっさんは蒼と同じように救いの手を差し伸べた。結果、谷口は錦糸町を出た。蒼はなぜだか、ずっと錦糸町にいる。だからまっさんも、気にし続けているのかもしれない。 蒼は中学生の頃から、自分だけが観たものを正体を明かさず広めていた。同級生のカンニング、教頭の不倫。長じてからも、錦糸町に起きる事件をQRコードを通じて不特定多数の人に知らせ続けている。そのことがまっさんにバレた。 「お前は人の痛み人一倍わかってるもんな」「お前に救われたヤツいっぱいいるんだろうな」 まっさんは蒼にそう告げる。蒼の行動は10話冒頭のMOROHAの歌詞にあるように「承認欲求」からくるものだったのだろうか。自分だけが観ていたことをないことにしたくない。誰にも知られず苦しんでいる人たちに「自分は観ている」と伝えたい。 「でももういいんじゃないか」 まっさんは言う。QRコードによる暴露のターゲットにされた人たちは、それなりの制裁を受けているように見える。誰も無傷のままで、誰かを救うのは難しい。 「なんで急にいなくなったの」。ビルの屋上でまっさんに聞く蒼の口調は、少し甘えているようにも見える。親からの愛情を受けることなく、友達もいない蒼が唯一心を許していた人。蒼の右の眉を掻く癖は、もしかしたらちょくちょく左のこめかみを掻くまっさんの癖がうつったのかもしれない。 「お前がやってきたことと俺がやってきたことは同じかもしれねえな」「人に寄り添うって意味でよ」 「ご自由にどうぞ」の言葉とともにまっさんが残した3箱の駄菓子を、蒼はどうするのだろう。間に挟み込まれたカラオケシーンのなみえは、蒼よりもよっぽど「ご自由に」生きているように見える。