非正規公務員当事者運動が押し返す「3年公募」と「クビハラ」の壁
「3年公募制」に高まる批判
そんな機運をさらに促すのが、「3年公募制」への批判だ。 厚生労働省の労働担当職員が加入する「全労働省労働組合」(以下、「全労働」)が18年にまとめた「期間業務職員の公募にかかる全労働の見解」によると、人事院は「平等取り扱い」「成績主義」の二つの原則を掲げている。「国家公務で働く機会を国民に幅広く平等に与える」ためと「専門性を有する公務員」を確保するために試験の成績を重視するというわけだ。だが、人を機械的に取り換えれば「専門性」は育たない。非正規当事者の間では、定期的な取り換えで、待遇改善要求などを封じ込めるもの、という不満がくすぶり続けてきた。 全労働も見解で「業務が継続するにもかかわらず、新たに応募者を募り、その中で選考を勝ち抜かなければ失業するという過酷な不安に陥れる」として「即刻廃止」を求め、公募コストによる無駄を次のように批判している。 「3年ごとの公募のため約3分の1が公募対象となり、この3倍の求職者が応募すると約2万人の選考が必要となる。一人当たりの面接時間を20分と仮定しても、全国規模で見ると6666時間を費やしていることになる。しかも、通常、面接は3人程度の職員が行うため、トータルで2万時間が必要である」 これらの仕組みが自治体に波及し、20年度からの1年有期の「会計年度任用職員」の制度化と、3年公募の広がりを生んだ。冒頭のスクールカウンセラー大量失業も、5年で更新を打ち切る「5年公募制」から来ている。 こうした批判は、昨年来、一段と広がりを見せている。原動力のひとつが、議員や住民など、行政の外からの公募批判の高まりだ。
地域との連携で公務を包囲
今年1月、千葉市内で市民有志が労働局と面談し、「3年公募」となるハローワークの経験豊富な非正規の就職支援員を切り捨てないよう求めた。 会場に集まった住民、議員、元非正規公務員、労組・NPOメンバーなど約30人が全員、順番に、就職支援員に助けられた体験や、機械的な公募の弊害を訴えた。有志代表の目崎真弓さんは「住民が行政に求めるのは『公務を平等に分ける』ことではなく、良質な支援ができる安定雇用」と言う。 こうした会合が実現した背景には、「顔出しできない非正規公務員も自力で発言、運営できる」を目指して22年に立ち上げた初の当事者ネットワーク「非正規公務員voices」の多様な発信があった。 非正規公務員の実態が伝わりにくいのは、公務員には民間のような労働基本権の保障がきわめて弱いことに加え、「公募制」に代表される短期契約の制度化がある。 元DV相談担当の会計年度任用職員で立ち上げに関わった藍野美佳さんは、「再任用してもらえない不安から当事者は、顔出しも集まることもためらう『身バレ恐怖症』に縛られ、それが改善の壁になっていた」と振り返る。 みなで知恵を絞り、安心して参加できるようニックネームだけで呼び合うおしゃべり会をラインで始めた。その場でいつも話題になるのが職場でのハラスメントだった。まずその実態をつかもうと、同年5月、アンケートを始めた。 531人から回答が集まり、「名前でなく『非正規さん』などと呼ばれる」といった差別やハラスメントを7割近くが体験し、被害者の半数は「退職を考えるようになった」という【図表3】。4人からは「無理やり性行為をされた」との訴えもあり「職場では正規・非正規が対等とは思わない」は8割近くに及んだ。 立ち上げに関わった1人の国の非正規公務員が、非正規公務員の女性たちへのインタビューをもとに差別実態をまとめた短編記録映画『わたしは非正規公務員』を製作、国会内で上映会も開いた。顔出しができないため、メッセージをフリップで映し出した。省庁交渉でも、当事者の意見を録音し、顔なしで聞いてもらった。 私は「非正規は、職場内では不採用をちらつかされて怯える少数派だが、職場の外の公共サービス関係者と連携すれば多数派」とする「地域巻き込む型労働運動」を提案してきた(『自治と分権』2022年秋号)。「voices」も24年1月、非正規の不安定待遇による公共サービスへのマイナスについて、非正規と受益者である住民らを対象に簡易アンケートを実施した。 千葉県内の市民有志たちの要請行動は、現場から発した矢継ぎ早の行動の中で掘り起こされた。