オリックスでダメ監督だったメッツのコリンズがワールドS出場の不思議
元々、コリンズは、統計学を利用して各種データを分析するセイバーメトリクスの理論を重視しすぎると批判されてきた。ライトの2番起用は、無死一塁でバントをした場合、得点の確率は下がるということをデータで実証してみせた「THE BOOK」という本の理論にならったもの。同書では、メジャーでまかり通っている3番に最強打者を置くラインナップを否定し、1、2、4番にチームのベストヒッターを置けば得点率が上がると、やはり過去のデータを元にはじき出している。 だが、これは、前後を打つ打者との関係で変わりうる。「THE BOOK」に沿うなら、せめて4番ではないかというのが地元記者らの指摘だったが、コリンズ監督はワールドシリーズでもライトを2番で使い続けている。その効果に関しては、今のところ判断が難しい。ライトは今季、故障でシーズンの大半を故障者リストで過ごし、わずか38試合に出場したのみ。分析には少なくとも1年分の客観的データが必要だろう。 一方、投手起用に関しては、先発投手陣の安定であまり監督の出る幕がない。ただ、リリーフ投手の使い方がワンパターンで、かつて巨人に在籍したカルロス・トーレスとヘウリス・ファミリアを過去2年、使い倒した。特にトーレスは完全に登板過多。昨年はリリーフで73試合に登板し、97イニングを投げたのである。 今年も前半から2試合に1回のペースでマウンドに上がったが、後半になって疲れが出たのか精彩を欠き、シーズンの最後に左足のふくらはぎに張りを覚えると、プレイオフでは一度もメンバーに入っていない。不運というより、必然か。ポストシーズンでフル回転しているファミリアも来年あたり・・・。 前出のアンソニー記者も、そうした選手起用について、「クリエイティブさに欠ける」と否定しなかったが、同時に、こんな見方を示した。 「彼はこれでも、随分変わった」 その意を問うと、こう答えている。 「選手起用に対する異論が出るのは、彼に限ったことではない。コリンズの一番の問題は、選手とのコミュニケーションだったが、そこがかなり改善された」 過去、コリンズ監督のリーダーシップの取り方は、「俺のやり方に従え、嫌なら、出て行け」という、極端なものだったという。 「以前、アストロズやエンゼルスで監督をしていた頃、選手をどう扱っていいのか、分かっていなかったのではないか。でも、長く監督を務めるうちに学んだんだろう。それが最善の選択肢ではないことを」 アンソニー記者によれば、目に見える部分で変化が感じられるそうだ。 「かつては、短気なところがあった。試合中も試合後も。でも今はーーまあ、完全になくなったとは言えないけれど、それを表に出すことが少なくなった。選手から信頼を得るためには、それではいけないと悟ったんだろうな」 メッツの監督に就任して、今年が5年目。 「今が、どの時代よりも確実に、選手の信頼を得ている」 それでも大局を見れば、選手の力が監督の指導力を上回る、ということのようだが、ではワールドシリーズで2連敗を喫した今、コリンズは監督としてどう立ち振る舞うのか。選手のおかげ、という捉え方を覆し、存在感を示すとしたら、この劣勢は望んでも得られないような好機に映る。 (文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)