【コラム】「焼き鳥とお好み焼き」のしたたか戦略と「世界一マズい!?」イギリスの食事情【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
個人の生活に話を移すと、シングルマザーという属性上、しかたなく息子を全寮制の学校に入れているため、学費がこの上なく高い。とにかく、高い。いまだに「February」の綴りが書けない息子に、毎学期英語の補助教師がつけられてしまう。これが授業中は35ポンド。授業外だと45ポンド。日本円にしてそれぞれ6000円強と8000円弱、である。 請求書を見てぶっ飛び、「なんとかもう少しサポート時間を減らしていただいて・・・」とおずおず頼んでみるも、「ダメです。教科書がまともに読めるようになったら考えます」とにべもない答え・・・勢い、鼻血の出そうな教育費を捻出するため、一人暮らしの母は自炊するしかない。ところが、である。スーパーに行ってみると、1か月前より物の値段が大幅に上がっている。4月の消費者物価指数によれば、食品や飲料の価格が4月までの一年間で19.1%の上昇と45年ぶりの高水準。生活に身近なもののインフレが止まらない。
そんななか、もっかイギリスの「マイベストレストラン」は家から歩いて2分のトルコ料理店である。入り口でたっぷりとひげをたくわえたおじさんが炭火でじゅーじゅーと肉を焼いていて、その香ばしい香りが道にあふれ出てくるので、前を通るたびに入りたくなる。 ちなみに息子の「マイベスト」はその向かい側にあるイスラムマーケットの店頭で焼いている丸焼きチキン、7ポンド也。鶏まるまる一羽を串に刺して、ぐるぐる回るロースターで一日中焼き続けている。20羽ほどの鶏が、焼かれた順に香ばしい色に仕上がっていくのを見るのは楽しい。そして、一日の終わりには、黒焦げになる前にちゃんと全部売り切れているから不思議だ。 こちらはもう何度も買っているので、常連になりつつある。行くたびに「今日のは、今までの中で一番美味しいよ!」と過去最高を更新してくるので、どこまで高みをめざすのか楽しみだ。
私の住んでいる地域は、日本人の不動産屋さんいわく、「日本で言えば足立区の北千住みたいなところ」とのことで、国際色豊かだ。道を歩いている6割は中東系、3割がロシア・東欧系かもしれない白人、そして1割がアフリカ系とアジア系、という割合だ。 人種が雑多で子どもも多く、幼児が操る「はじめてのキックスケーター」(もちろん電動ではない)によくぶつかる。仲良しのアルジェリア人のドライバーさんいわく、「ちょっと行ったところで、ヤクの売買とかやばい傷害事件とかがよくあったけど、今はデカいショッピングセンターができたおかげでなくなった」とのことで、まあまあ安全なエリアでもある。 アパート(こちらではフラット、と言う)がいくつも集まった集合住宅で、一応、入り口に車止めのゲートはあるのだが、左右の隙間から宅配のオートバイがゆうゆう出入りしているので、あまり意味はなさそうだ。なんせ赴任したのが12月29日でまったく不動産屋があいておらず、仕方なくインターネットで決めた物件なので、不動産屋さんとも大家さんとも、一度も顔を合わせたことがない。 入居当初からの不具合(途中の割れ目から水がじゃあじゃあ出るシャワーのホース、曲がったままトイレットペーパーが落ち続けるペーパーホルダー、4個中前列2個の火がつかないガスレンジ、一度スイッチを入れたらアパート全体のヒューズが飛ぶオーブン・・・等々)は4か月たった今も、直らないままだ。 必需品のガスレンジについては、12通もメールを書いたのだが、「そのうちに」みたいなのらりくらりした返事が返ってくるばかりなので、支局のイギリス人カメラマンに相談したところ、秘策を教えてくれた。 「だったら勝手に自分で修理工をよんで、修理費を来月の家賃から引きますけど、いいですね!」と送ってみろ、とのこと。それはちょっと強引では・・・と危ぶんだのだが、彼はその手で成功したのだそうだ。教えられた通りメールを送ってみると、「あなたには家賃を勝手に減額する権利はありません!・・・が、すぐに修理工を手配します」とのこと。 さすが郷に入っては郷に従えだ、と感心していると、翌週、修理工がやってきた。いや、正確には月曜日に約束したのが火曜日になり、水曜日になり、結果的に木曜日にやってきたのだが、数分ガス台を眺めたあと、「今日は部品も道具もないから無理!数日後に連絡する」と言って手ぶらで帰って行った。そして2週間経った今も、連絡はない・・・