ハワイの「ABCストア」米国本土にも店を出す狙い。創業した日系家族に受け継がれてきた経営哲学
■従業員が経済的に繁栄することが重要 ポールさんは、祖父母や両親から受け継いだ日本型経営の特徴の一部が、自社の企業文化に受け継がれていることを自覚している。経営を取り巻く激しい環境変化を通して改めて、その本質的な価値に気付かされるという。 「必要なのは、日本の企業が過去を見直し、先人が築き上げた成功を見て、その教訓のいくつかを今日の経営に取り入れようとすることだ。昔はもっと会社は慈悲深かった。株主は利益を求める。でもオーナーにとって利益がすべてではないんだ。
オーナーはヨットやプライベートジェットを買う必要はない。それよりも、従業員が経済的に繁栄し、次の世代、彼らの子どもたちが繁栄することがもっと重要だ。それが私の信念であり、従業員と共有しようと努めていることだ」 顧客と向き合うサービス業の現場では常に、トップの社員との向き合い方も問われている。ポールさんが重視しているのは、「品格」「自分自身に誇りを持つこと」だという。 「例えば、遅刻をした従業員がバスが遅れた、寝坊したと言い訳をする。でも、自分の問題を何かのせいにしてはいけない。だから私は彼らにいうんだ。あなたはもっとうまくやれると。自尊心を高めたいなら、自分の人生を自分でコントロールしなければならない。そうすれば、いいことが起こる。一種の哲学なんだ」
もちろん、こうした問いかけがスタッフ全員の心に響くとは思っていない。ポールさんは「その中の少なくとも10%を獲得できれば、僕の勝ちだ」と笑顔を見せる。 ABCストアの経営者としての顔以外に、ポールさんはいくつもの社会的な職責を負っている。非営利団体の活動を支援するために両親が設立したコササ財団会長、ハワイ交響楽団会長のほか、セントラルパシフィック銀行、クアキニ病院の理事などだ。 「これらはビジネスや資本をベースにしたエコシステムであり、(利益は)コミュニティーに再投資されるんだ。私の祖父母や近所の人々がお互いに助け合ってきたことを思い出してほしい。ABCが銀行を助け、銀行は地域のビジネスを助け、従業員にも利益が分配される、(財団には)奨学金制度もある。彼らの扶養家族は医者や弁護士などあらゆる職業に就くことができる。ある種、自給自足のサイクルがずっと続いているんだ」