窪田正孝”藤竹”の過去が辛すぎる…科学部再出発の決め手となった名言とは? NHKドラマ『宙わたる教室』第9話考察レビュー
藤竹が行っていた”実験”
日本でも同じようにできたら。その気にさえなれば、なんだって生み出せるのではないか。 そう思ってはじめたのが、定時制高校に科学部をつくるという“実験”だった。これまで科学に縁のなかった生徒たちを集めて、学会発表を目標に突き進む。定時制であることを理由に苦汁をなめたこともあったが、おおむね順調に進んでいたかに見えた。しかし、現在は空中分解寸前だ。 実験は失敗。仮説は証明できなかった。藤竹は自分のせいで岳人(小林虎之介)を失望させてしまったと、佳純(伊東蒼)、長嶺(イッセー尾形)、アンジェラ(ガウ)の前で謝罪する。 だけど、本当にそうだろうか? 藤竹は、たしかに岳人をその気にさせ、味わう必要のない挫折を与えたかもしれない。きっとあのとき学校を辞めていれば、「頑張ったことを諦めるのは辛い」と泣くこともなかっただろう。 もちろん、傷付かなくて済むのならそれに越したことはない。だからといって、傷付くことがわかっているから手前で諦めるというものでもないはずだ。 痛みなくして得るものなし、というとやや暴力的になってしまうかもしれないが、なにかを頑張る陰には、必ず苦も楽もある。なにより、あんなに楽しそうに実験に没頭していた日々がなかったほうがよかったとは、到底思えない。 「挫折させなくてよかったってこと? そんなのつまんない」と長嶺の妻・江美子(朝加真由美)は無邪気に言った。これでよかったのだと自分を納得させようとする長嶺より、やっぱり彼女は一枚も二枚も上手だ。
科学部の再出発
物理準備室に入ってきた岳人は一目で殴られたとわかる痛々しい姿だった。科学部に手出しをしないことを条件に、孔太(仲野温)とケリをつけてきたという。「違う場所でも認め合うのが友だち」という岳人の言葉が、孔太にどれだけ響いたかはわからないが、どうか自分の人生を諦めずに歩いて行ってほしいと思う。 傷だらけの岳人だが、前回のような弱々しい空気は一切まとっていない。それどころか、謝罪をする藤竹に「諦めたものを取り戻す場所なんじゃねーのかよ」と掴みかかる。これは紛れもなく、藤竹が岳人にかけた言葉。 装置が破壊されたことで一度は諦めかけたが、岳人たちの心に燃える火は決して消えてはいなかった。「実験は、予想外の結果が出てからが本番だよ」と伊之瀬(長谷川初範)の心躍るような表情。諦めてしまっていたのは、むしろ藤竹のほうだったのかもしれない。 育ってきた年代も環境も大きく異なる4人が、科学部として再出発を切る。必ずしも人は平等ではないかもしれないが、少なくとも、誰にでも学ぶ機会だけは与えられてほしい。 そして、結果は学歴や立場に関係なく、正当に評価されるべきだ。実験結果をのぞき込む、嬉々とした科学部の面々の表情を見て、そんなことを感じた。 【著者プロフィール:あまのさき】 アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。
あまのさき