映画『プロミスト・ランド』:杉田雷麟と寛一郎が語り合う、マタギの山で過ごした日々
「やりたいことが見つからない」若者へ
『プロミスト・ランド』は、自然と共に生きるマタギの文化をテーマにしながら、過疎化した町で閉塞感を抱きながら生きる若者が、置かれた環境にあらがい、自らの意志で生きる道を選び取っていく物語でもある。特に年若い信行が短い期間で大きな成長を遂げる姿がみずみずしく描かれている。 杉田 信行は最初、疑問や文句がありながらも、 流されるままに毎日を過ごしていました。それがクマ撃ちに行ってからは、同じことをやっていても、以前とは意識が変わっているんです。目に映る景色も違っているでしょう。 寛一郎 信行の場合は、礼二郎と実際にクマ撃ちに行ってみて、そこで“何か”を感じたんですよ。分かりやすくいったらそれは“マタギの血”なのかもしれない。言語化し得ないパワーを得て、彼は自分の道を決める。映画の冒頭に出てくる信行と、クマ撃ちに行った後の彼とは、同じように見えて全く違うんです。信行みたいに自問自答を繰り返していたら、答えが出るとまでは言わなくても、いつか自分から行動しようと思える時が来るような気がします。 劇中、悶々(もんもん)とする信行に、礼二郎は「人はやりたいことをやるようにできている」と諭す場面がある。自らの意志で俳優の道に進むことを選んだ2人は、自分の現在に引き寄せてこの言葉に何を感じるだろうか。 寛一郎 あの言葉はあくまで礼二郎の願望のような気がします。もしも本当に誰もがやりたいことだけやっていたら、この世界はすぐに回らなくなる。どう考えたって、みんなが自分のやりたいことができているわけではない。悲しいことに、自分の気持ちにうそをついて生きているからこそ、これだけ多くの人たちが心を病んだり、自ら命を絶ってしまったりもしているわけで…。令和の時代を生きる若者たちは、そもそも自分がやりたいことが見つからないという悩みを抱えているんです。ありがたいことに、僕はいまやりたいことができていますけど、何が本当にやりたいのか気付くまでには時間がかかりました。特にきっかけがあったというよりは、ずっと一番身近にある文化として、常にどこかで意識していたんでしょうね。 杉田 僕は子どもの頃から続けてきたサッカーを進学のタイミングで諦めて、俳優の道に進むことにしました。いまは芝居が自分の一番やりたいことではあるんですが、たとえ途中で変わったとしても、その都度ちゃんと自分の夢に向き合えていればいいと思うんです。僕が俳優を選んだ理由の一つは、いろんな職業が体験できるから。でも、いまのところ僕が演じてきた役は、一般的な職業に就いていないことの方が多くて。殺人犯とか…(笑)。これからも俳優だからこそ挑戦できる役に向き合っていきたいです。 取材・文:渡邊玲子