映画『プロミスト・ランド』:杉田雷麟と寛一郎が語り合う、マタギの山で過ごした日々
渡邊玲子
『プロミスト・ランド』は、マタギの文化が息づく土地に生まれた2人の若者の葛藤と成長を描く。禁を犯してでもクマを撃つことで何かを見つけようとする主人公の信行と礼二郎を演じるのは、若手俳優が群雄割拠する中で存在感を放つ杉田雷麟と寛一郎。白銀に覆われた山奥で大自然と対峙する過酷な撮影に挑んだ2人に、今回の体験で得られたことを語ってもらった。
2023年に公開された『せかいのおきく』(阪本順治監督)に続き、映画美術監督・原田満生が立ち上げた「YOIHI PROJECT」の第2弾となる『プロミスト・ランド』。1983年に第40回小説現代新人賞を受賞した飯嶋和一の同名小説を原作に、「阪本組」で研さんを積んだ飯島将史が監督した。監督のデビュー作は、同じく山形県庄内地方のマタギ衆に密着したドキュメンタリー『MATAGI -マタギ-』(23)。今回は、売り出し中の杉田雷麟と寛一郎をW(ダブル)主演に起用し、三浦誠己、占部房子、渋川清彦、小林薫ら円熟の俳優陣が脇を固める劇映画に初挑戦だ。
マタギに抱いた憧れと共感
マタギの伝統を受け継ぐ東北の山間の町に生まれ育った信行(杉田)は、高校卒業後に家業の鶏舎を継いだ20歳の青年。この土地の閉鎖的な暮らしにうんざりしながらも、流されるまま日々を過ごしていた。 ある日、マタギの親方・下山(小林)のもとに役所から今年のクマ狩りを禁止する通達が届く。違反すれば密猟とみなされ、マタギとして生きる道が閉ざされてしまう。町のマタギ衆は仕方なく決定に従うが、信行の兄貴分である礼二郎(寛一郎)はかたくなに拒み続ける。やがて礼二郎は信行を呼び出し、2人だけで狩りに挑む秘密の計画を打ち明ける──。 杉田と寛一郎は、飯島監督の手掛けたドキュメンタリーを観た上で、クランクインの1週間前から現場に入り、「マタギの道行きをたどりながら、狩猟道具の扱い方や、クマの追い方を教えてもらった」という。それもそのはず、たった2人だけでクマ撃ちのためにひたすら山の中を歩くシーンが映画の半分以上を占めるのだ。本番でも、麓から登りながら撮影を行ったため、カメラには演技を越えたリアルな表情が捉えられた。 杉田は2022年に公開された映画『山歌(サンカ)』に出演した際にも、クマ撃ちの儀式の意味を教わった。いまなお続くマタギの文化について「自然と共存しながら生きている人たちの最前線」であると感じ、「一種の憧れにも似た感情を抱いた」と振り返る。 杉田 クマを獲ったら肉を残さず食べて、剥いだ毛皮は、雪の上に座るときの尻当てにする。すべてを無駄なく使い、感謝するという姿勢は、尊敬すべきものだと素直に思いました。そうした文化に触れ、少しでもその空間に身を置くことができたのはありがたいです。 一方、礼二郎を演じた寛一郎も、すでに撮影の1年前から、猟友会の人たちと一緒に山に登らせてもらったという。「どうにかしてクマ撃ちの実感を得たい」と考えたからだ。 寛一郎 僕にも、自分で食べる物を自ら獲って暮らしている彼らに憧れる気持ちがありました。彼らがなぜマタギをやっているのか聞きたくて、「カッコいい!」と思えるような神秘的な答えを期待していたんです。でも、実際の彼らは「そんなのクマぶちゃあ(撃てば)いいんだよ」って(笑)。クマ狩りは自然と人間をつなぐ神聖なものですが、彼らにとっては生まれた時から生活の中に根付いて継承されてきたものなので、そこに理由はいらないんです。それでも彼らはクマ撃ちに喜びを感じるし、それが生き甲斐にもなっている。「家の習わしを受け継ぐ」という意味では、俳優業をやっている僕にも感覚的に分かるところがあって。礼二郎のキャラクターとも通じるところがありました。