【ウクライナがロシアから守りたいもの】強まる「ウクライナ人」であるアイデンティティ、女性たちが果たす役割とは
それでも、戦時下で国家予算は戦費に費やされ、文化や教育部門の予算は削減されるばかりだ。ガリーナさんが働く民族図書館は「民族」という名が付与されているので、国立図書館の中では恵まれている方だという。他の図書館などは予算削減のみならず、統廃合も進んでいる。
ウクライナ人のアイデンティの強化
ウクライナ人とロシア人は同じ東スラブ系民族であり、共通事項も多い。ウクライナ人本人も、ロシア人なのかウクライナ人なのか見た目では判別できない。また、ソ連時代にロシア人かウクライナ人かはあまり重要視されなかったため、書類によって証明できるわけでもない。問題は自己認識としてどうふるまうかだった。 実際、ソ連が崩壊した91年以降もウクライナでは、東側でロシア語、西側でウクライナ語を話す傾向があった。筆者は14年以降、頻繁にウクライナを訪れているが、ウクライナ人から「なぜ、ウクライナ語を話さないといけないのか」という言葉をよく耳にした。 この状況は22年のロシアによるウクライナ全面侵攻によって一変。領土の防衛以外の面でもウクライナ人は強固に「ウクライナ」であることを保護し、主張する必要に迫られている。これが〝ウクライナ語を話す〟ことにも繋がっている。 そのようなウクライナ国民の思いが高まる中で活躍しているのがガリーナさんのような人たちだ。「領土を守れたとしても、自分たちの文化がなければ、ウクライナである意味がなくなってしまう」と強調する。
芸術を通じてウクライナに関心を
24歳のヴィカさんはコレオグラファーである。芸術一家に生まれ、舞台芸術を専門とする国立大学を卒業した。 以前は、より美しく、楽しく踊ることを目指していたが、全面侵攻以降、踊ることの意味を深く考えるようになった。 戦時下で、職場でもあるキーウの劇場は市民の避難所となった。ヴィカさんは前線の兵士への食糧配給などのボランティアに参加した。その混乱の中で出会ったのが、同じく劇場に携わる仕事をしており、志願兵となったオレクシだった。 オレクシさんは映画の撮影などの仕事をしていた。24年現在も東部前線で映像を撮る任務についている。オレクシは「いつか自分の撮った映像で映画を作りたい」と話した。2人は結婚している。 ヴィカさんは国を守るために戦地へ行く夫を誇りに思っている。自身も定期的に危険な前線近くの街へ夫に会いに行く。 オレクシさんは「妻が来てくれることは非常に大きな精神的助けになっている」と話す。一緒の時間を過ごせることによって心の休息と、つかの間の「生活」を感じることができるという。兵士は前線で常に大きなストレスを抱えているのだ。