「僕、いらないんじゃない?」ーーテレビから離れたヒロシ48歳、「ネガキャラ」の覚醒
お金だけが喜びではない
現在、YouTube「ヒロシちゃんねる」の登録者数は、67万人。コロナ禍で外出自粛が要請されてから、登録者数はさらに跳ね上がった。YouTuberとしての収入があるから、しばらくは安泰ということなのだろうか。 「確かに、お金に困っていません。というか、金額をあまり見ていません。今は、お金に喜びを感じることが少なくなりました。なんて言ったらいいのかな。たしかにお金はあったほうがいいとは思いますけど、実際、僕、あまり使わないんですよ。テレビで忙しかったころは、確かに稼いでました。毎月、何百万、何千万という単位で銀行口座の金額が増えて…当時は麻痺してました。一時期テレビに出なくなって、もちろん収入は減りましたけど、特に困った時期はありませんでした」 テレビに出て人気者になる。高収入を得ていい家に住み、好きなクルマを買い、女性にモテる。芸人としての成功例を一通り体験したヒロシだったが、満足感はあまり得られなかった。
甘く見られてる、おもちゃにされてる
「テレビで観なくなった」と言われて久しいヒロシだが、テレビから遠ざかったのは、単純に人気が低迷したからではない。いわば、自らテレビの世界から去った。「テレビの世界に、違和感があったから」だ。 「『こういうヒロシネタでやってくれ』っていうオーダーが多くて…。でも、僕にはそれは面白いと思えていなかった。例えば、番組MCの名前を入れて自虐ネタを言ってくれとか。酷いのになると、ロケの当日にいきなり、オープニングで『名古屋城で“ヒロシです”を作って欲しい』とか。そんなの無理なんですよ、どうすりゃいいかわかんない。謎かけネタじゃないんだから。ネタを一生懸命作っていたんですけど、甘く見られているな、って。なんかネタをおもちゃにされてる感じ、たまらなかったです」
自分の思いと違う形で、「ヒロシ像」が勝手に操作されてしまうのが耐えられなかった。制作側の思惑通りにネタを捻じ曲げれば、視聴者からのヒロシの評価は下がっていく。 「受けようが受けまいが、もう僕はつまらない人になる。テレビを見た人はそう思っちゃうわけですよね。たくさん番組に出ている人が優れてるという判断になっているのに気付いて、もう、バカバカしいなって」 当時はテレビの「ひな壇」全盛期。積極的に前に出てトークをするタイプではないヒロシにとって、それはとても辛いものだった。 「ひな壇も、じっと座ってるだけ。2時間収録があって、どこかで『ヒロシです』って一言だけ言うタイミングを待っている。『僕、いらないんじゃない?』って思ってました。気まずかったですね。だから、テレビから遠ざかろうと決めた。迷いはなかったです。正直、自分のネタに自信がありましたから、どうやってでも食っていけると思ってましたし。あまり後先のこと、考えてなかったですね」 芸人の立ち位置が変わってきたことも、失望した要因の一つだ。 「僕、芸人って、アウトロー、不良だと思ってた。反逆的な匂いがあって、格好いいな、って。でも、今は違う。飲み会や野球チームに参加した方が有利とか、上に求められた通りに振る舞うとか、サラリーマンの方々と一緒ですよ。そこを外していく人が、芸人だと思ってた。ネタで勝負。でも今って、女性と遊ぶのもすぐ怒られるじゃないですか。芸人になって浮気しちゃ駄目って、よく分かんないんですよ。芸人なんかなるもんじゃないよっていわれてたはずなのに、なんか芸人こそまともに、聖人みたいになってる。しょうがないんでしょうけどね」