<北陸記者リポート>センバツ・敦賀気比 試合通じて自信と成長 /福井
昨夏の甲子園出場から短い準備期間でも昨秋の北信越大会で準優勝し、5季連続の甲子園出場を勝ち取った敦賀気比ナイン。その陰には、試合を通じてプレーの引き出しを増やし、大会の中で成長を続けた選手たちの努力があった。【高橋隆輔】 ◇配球磨いたバッテリー 守備の中心となる辻晶太投手(2年)と柏木勇樹捕手(同)のバッテリーだが、両者とも旧チームではベンチ入りがかなわなかった。このため、配球は手探りのまま大会入り。辻投手は捕手の配球を尊重し、サインに首はほとんど振らなかったが、県大会は「何か違う」と違和感がぬぐえなかったという。 原因の一つは、辻投手が直球の切れに自信を持つ反面、変化球の制球に苦手意識が残っていたことだった。中学までは速球派だった辻投手は、外角の変化球を見せた後に、直球で打ち取るイメージを持っていた。しかし、思うように空振りが取れない。柏木捕手は「打者は変化球の次は直球と張っている」と判断し、北信越大会初戦の松本国際(長野)戦で変化球を続けて要求。この新しい配球パターンで、中盤に4番から4者連続の三振を奪った。2人は「この試合を境に息が合い始めた」と口をそろえる。 ◇役割自覚で下位打線が奮起 一方の野手陣は浜野孝教主将(2年)ら旧チームのレギュラーが3人残り、上位打線を固めた。しかし、1番の浜野選手が打率1割台など、本来の力を発揮できなかった。 3人の後ろを任された5番の佐伯大優選手(同)は「3人に対しては相手の警戒が明らかにきつい」と感じていた。打席は走者がたまった場面か、回の先頭で回ってきており、打線のつながりの鍵を自分が握っていると認識。低めの変化球を辛抱強く見極め、アウトになるにしても球数を投げさせるなど、内容を意識した。その結果、秋はチームトップの6打点を挙げ、三振はゼロだった。 また、8番打者のレギュラーが不調で、県大会決勝からその打順を引き継いで先発入りした西口友翔選手(1年)は北信越大会も好調。打率4割3分8厘と、チームの首位打者になった。中学まで西口選手は1~3番しか打ったことがなく、打席では追い込まれてもわざと難しい球を狙い、思い切り左方向に引っ張るスタイルだった。経験がない8番の役割を模索していると、東哲平監督に「しぶとさがないと務まらない」と助言を受けた。 迎えた北信越大会準々決勝の中越(新潟)戦では追い込まれた後に右前打。「変化球を空振りしないように引きつけて打つ意識だった。一度も打ったことがないような安打だった」と振り返る。この試合は八回に同点打、九回に追加点を挙げる適時打も放った。新たな役割への対応が打撃の引き出しを増やし、打率や勝負強さが向上した。 試合経験で成長するのは、試合中のプレーだけではない。西口選手は中越戦の守備で送球する際、球を握り損ね、併殺を逃した。その結果、この回に4失点。西口選手は、「ノックではいつもあの場面を思い出し、簡単な打球でも大事にさばいている」と話す。 ナインは試合中の成功体験で自信とプレーの引き出しを身につけ、失敗はその後の成長の糧にしている。