南スーダンPKOは維持できる現状なのか? 「戦闘と衝突」「駆けつけ警護」
「戦闘か衝突か」だけでは難しい判断
我が国の国会では、南スーダンの状況は悪化して「駆けつけ警護」どころか自衛隊を維持できるか、隊員の安全を確保できるかなどついて疑問視する声が上がっています。 これに対し安倍首相や稲田防衛相は、南スーダンで起こっている状況は「戦闘」でなく、「衝突」だと答弁しています。PKO部隊を撤収しなければならない状況には至っていないという意味でしょう。 では、何が「戦闘」であり、「衝突」なのでしょうか。「戦闘」は二つの勢力が武器を使用しながら組織的に戦うことであり、銃を持った数人の人が警備の部隊と銃撃戦をするような場合はこれに当たりません。 一方、「衝突」とは、たとえばデモ隊と政府の警備隊が激しくぶつかる場合などのことです。武器が使用されることもありますが、「戦闘」と違ってむしろ使用されない場合が多いでしょう。 死傷者の数は「戦闘」と「衝突」ではおのずと違ってくるでしょうが、それは結果に過ぎません。犠牲者の数の多寡で「戦闘」か「衝突」かを区別すべきでありません。 また、「戦闘」は国家対国家の場合に限られるのでもありません。その場合はむしろ「戦争」に該当する場合が多いでしょう。さらに、ある時点で見れば「衝突」でも、それが「戦闘」に発展する場合もあります。紛争の当事者双方がいったん武器を置いて「停戦」しても、情勢が安定していないため「戦闘」が復活することは少なくありません。 したがって、PKOが成立するか否か、維持できるか否かは、「戦闘」か「衝突」かだけでは足りず、当該地方の状況を全体的に、かつ、一定の期間にわたって判断する必要があります。
維持困難な場合の判断基準の議論深化を
一度「和平あるいは停戦」が成立しても崩れてしまう例は過去にもあります。コロンビアでの政府とコロンビア革命軍(FARC)との半世紀以上にわたる抗争や、アフリカではコンゴ民主共和国、中央アフリカなどでも何回も「戦闘」が起こっています。第二次大戦後中国で起こった内戦も複雑で、現在でも終了していません。 PKOは世界の平和と安定のために欠かせない国連の活動ですが、南スーダンの場合をきっかけに、どのような基準でPKOが維持困難であると判断されるべきか、検討が深められることを期待します。
------------------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹