「原作に惚れ込み、映画化を直談判しました」「日本の近未来が描かれている」原作者・平野啓一郎×主演・池松壮亮《映画『本心』特別対談》
「自分の仕事がクリエイターの刺激になるのが嬉しい」
平野ありがとうございます。まるで美しい音楽を聴いているかのような池松さんのお話を伺って、気持ちよくなってしまっていました(笑)。池松さんが石井監督と一緒にこの作品の映画化を実現したいとおっしゃったとき、非常に光栄なことだと思いました。映画化のお話って、実はいろいろなところからいただくのですが、実現しないこともよくあります。ですから、話が軌道に乗るまではぬか喜びをしないようにしていました。実現に至ってすごく嬉しかったですね。 自分の仕事が同時代のクリエイターの刺激になるのが、僕はすごく嬉しい。映画を作るとなるとお金も時間もかかるけれど、それでも取り組みたいと思ってもらえるのは、やはり非常にありがたかったです。
撮影まで3年を要し、脚本の改稿を重ねた
――映画は原作小説を忠実になぞるのではなく、大胆に再構築されています。それについてどう感じましたか。 平野情報量が多い小説なので、原作通りにしようとするとダイジェスト版のようになってしまう。ですからある程度、映画的に解体して再構築してもらったほうがいいと思っています。今回は石井監督のアイディアが色々あるのが脚本の段階でわかったので、それを活かしてやってもらったほうがいいんじゃないかなと思いました。 池松平野さんに映画化の許可をいただいてから撮影までに3年、公開までに4年の時間がかかっています。その間、石井さんは様々な試行錯誤を行ない、約百稿近く……おそらくこれまでで一番脚本の改稿を重ねていたと思います。それだけ難しい題材だったと思います。 原作の表面だけを掬っていっても、決して映画としていいものにはならない。その真髄にあるものをどう捉えて、再構築できるのか。長く険しい道のりでしたが、石井さんが強いビジョンを持って突き進んでくれたおかげでなんとかここまで辿り着くことができました。その間、平野さんが今日に至るまで、時にアドバイスをくださり信じて見守ってくださったことが何より心強く、力をいただいてきました。