タイヤの空気を抜かれ、カードは止められて…数百万のロシア人の前で反戦を訴えた女性に降りかかった「異変」
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第8回 『「不幸な事故には気を付けて」…ロシアメディアが好んで使う「裏切り者」への「ヤバすぎる常套手段」』より続く
徐々に明らかになる異変
当時のわたしは黙々と出勤し、機械的に自分の仕事を済ませ、なるべくこの汚泥に汚れないようにと、早々に家に帰っていた。 朝、わたしはガシンスキー弁護士と一緒に、オスタンキノへ行った。これが最後だった。テレビセンターの広大な駐車場から自分のクルマを取ってこなければならなかった。ゲートに近づくとガシンスキーはクルマのカギを持って警備員のところに行った。わたしはゲートの外でガシンスキーを待った。数分後に携帯が鳴った。 「クルマにエアーポンプはありますか?」 「もちろんあります。どうしたんですか?」 「全部のタイヤに穴が開けられているか、さもなければ空気が抜かれているんです。空気を入れてみます」 「わかりました。これは小さな復讐だと思います。たぶん、オスタンキノに『イギリスのスパイ』が入り込んだといって、警備をクビにされた人がいるんでしょう」 ガシンスキーは大声で笑った。30分ほどするとガシンスキーはわたしのSUV車をゲートの外まで運転して来た。 「空気を入れました。空気が抜けるわけではなさそうですね。いますぐ洗車とオートサービスに行ったほうがいい。しっかり洗車して、入念に見てもらってください。盗聴器もあるかもしれない」 「盗聴器がどんなものか、オートサービスは知ってるかしら」 わたしは笑った。
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