『ザ・ボーイズ』S4は何を描いたのか 現実味を帯びすぎて“笑いづらい”本作と我々の未来
もう笑えない描写が増えてきた? 『ザ・ボーイズ』のこの先を考える
最終話、ブッチャーは完全にV24の副作用で体内に生まれた触手型の生命体に意識を任せ、その状態でニューマンを殺害してしまった。彼女の娘はニューマンと同じように「レッド・リバー」の施設に連れて行かれ、ヒューイとマザーズミルクはホームランダーに遜った政府の出した戒厳令により捕まってしまう。ようやく結ばれたキミコとフレンチーも、フレンチーがケイトの洗脳にかかってしまったせいで離れ離れに。シリーズがはじまって以来ようやく声を出した彼女の言葉が「No(ダメ)」だなんて、あまりにも切ない。ブッチャーは完全に体内を蝕むコンパウンドVの副作用に支配されたかのように見え、アニーは1人追手の手から逃れることができた。 彼らザ・ボーイズの面々に限らず、国をも揺るがす危機的な局面を迎えて終えたシーズン4。最終シーズンと言われているシーズン5がすでに暗い内容になりそうなことが容易に想像できる。しかし、シーズン4だって十分に暗く、キツい描写が多かった。 もともと性的にも暴力的にも過激な表現やシーン、ジョークがてんこ盛りだった『ザ・ボーイズ』。そのブラックジョークが笑える点で人気を博していたが、シーズン4に関しては「もうあまり笑えない」という視聴者の声も多く見受けられた。例えば第1話、シスター・セージによって誘発された裁判所前の乱闘。地面に倒れたスターライト支持者のキアラをホームランダー支持者の男性が複数で殴る蹴るの暴行を加え、負傷させるシーンは本当にデモのシーンでこういった暴行事件が起きているからこそ、あまりに現実的で痛々しい。加えて第6話ではウェブウィーバーに扮してテックナイトの屋敷に潜入したヒューイが、テックナイトとアシュリーからSMプレイを受ける。セーフワードがわからなくて慌てる彼の様子など、このシークエンスから“笑い”を取ろうとしている姿勢が窺えるが、これらは完全にただヒューイが性暴力を受けるシーンでしかないのだ。物語のラストでまだ受け入れきれていない父の死に加え、性的な暴力を受けたことによるショックでヒューイが「大丈夫じゃない」と言う場面は、性別問わずコミックリリーフとして描かれがちなキャラに、“何をしても笑いになる”と考える物語の制作者に対するアンチテーゼにも捉えられる。こんなふうに、シーズン4には風刺的な笑いとして昇華される以前に、目を瞑りたくなるほどただ苦しいものでしかない描写がいくつか散見された。 極め付けは最終話。もともと「Assassination Run(暗殺実行)」として発表されていたタイトルが、配信直前に起こったトランプ銃撃事件を受けて「Season Four Finale(シーズン4フィナーレ)」に急遽変更され、制作側から以下のような異例の声明も発表された。 「『ザ・ボーイズ』のシーズンフィナーレには架空の政治的暴力にまつわる場面が含まれており、特にトランプ前大統領の暗殺未遂事件によって負傷者や悲劇的な犠牲者が出たことをふまえると、これらのシーンを不快に感じる視聴者もいるかもしれません。『ザ・ボーイズ』(シーズン4)は2023年に撮影されたフィクションのシリーズであり、現実での出来事と類似したシーンやプロットは偶然で意図的なものではありません。アマゾン、ソニー・ピクチャーズ・テレビジョン、そして『ザ・ボーイズ』のプロデューサーは、現実世界に起こるいかなる種類の暴力を、最も強い言葉で否定します」 フィクションの作品が奇しくも現実を予知してしまった。冒頭でも述べたが、そんなことは今に始まったことではなく、こういうことが起こるたびに我々の生きる世界がより一層、“嘘みたい”なものになっていることを再確認させられる。『ザ・ボーイズ』がファイナルシーズンを迎える頃、私たちの社会は果たしてどこまで変容しているのか。混沌を極める今を生き抜く。そんな試練はザ・ボーイズのメンバーだけに訪れたわけではなさそうだ。
ANAIS(アナイス)