2024年の訪日外国人は38%増の3450万人…インバウンド価格の実態と国内消費への影響
最近、国内の観光地で、日本人からすると驚くような「インバウンド(訪日外国人観光客)価格」の飲食店を見かける。3000円台の天丼や1万円以上するランチコースなどを提供しており、一般的な日本人からすると高価な印象を受ける。こうした“高額店”はコロナ禍で激減したが、復活しつつある。 【写真】2時間待ちもザラ!東京タワーの意外な「映え」スポット 森トラストが7月に公表した試算によれば、2024年のインバウンドは前年比38%増の3450万人とされる。 100グラム1万円以上の和牛ステーキを提供し、都内でチェーン店を展開するある飲食店はインバウンドに人気だ。 「およそ9割がインバウンドです。日本人にとっては高価でしょうが、海外よりも安く和牛を食べられるため外国人観光客からは『安い』と言われています」と浅草店の店員は話す。 “高額店”が特に多いのが上野・浅草界隈だ。3500円の天丼を提供する店舗の関係者によると「多い日で8割がインバウンド」だという。串焼き居酒屋の呼び込みも「1300円の和牛串焼きを頼む日本人はいない」と話す。聞き込みを続けると、一般的な飲食店は国内外の人が入店する一方、高額店はやはり外国人客がメインだとわかった。日本人からすればぼったくりにも見える店舗もあるが、なぜ外国人は群がるのか。 「外国人はそもそも日本の物価水準がわかりませんし、どこに安い店があるかは把握していない。『ここでしか買えない』という心理が働き、財布の紐も緩みがちになる」(私大観光学科の教授) 高額店のほとんどが和食関連で洋食や中華は見かけない。日本でしか食べられないことで強気なインバウンド価格を設定しているのだろう。 円安も影響している。2019年まで1ドル100円台後半で推移していた為替は現在、150円前後。外国人にとって日本の物価は、単純計算で1.3倍以上も安くなっている。 ■大手飲食チェーンも続々 インバウンド価格は零細業者だけの話ではない。大手飲食チェーンも高額メニューを提供している。税込み約2000円のうな重を販売する吉野家は一時期、インバウンドメニューのおすすめ欄に同商品を掲載していてネットで話題になった。 くら寿司ではグローバル旗艦店の一つ、銀座店で1800円の特上にぎりセットや1300円の天ぷら盛りを提供。「旗艦店では客の約半分がインバウンド」(くら寿司関係者)だという。外国人を意識した価格設定であることは明らかだ。 観光公害の一例として物価の上昇があげられる。現状、高額店は人気観光地に集中しており、追随する大手チェーン店も少ないため、国内の消費者への影響は小さい。だが政府は2030年までに年間訪日外国人客数6000万人という目標を掲げている。これは今年10月末までの累計の約2倍にあたる。 過度なインバウンドの呼び込みは、国内消費者に実害が出るほど“高額店”を増やすことになりかねない。 (ライター・山口伸)