「トランプを支持する保守派は人種差別的だ」という批判は正しいのか? 彼らが大谷翔平のお辞儀を見て「日本の美」を礼賛するワケ
バイデン大統領までが買収反対の声明を
2019年からの4年間の駐在時は、アジア系住民に対するヘイトクライムは深刻で、少なくない数の日本人も被害に遭ったが、アメリカという国全体としては日本に対する印象は良くなったと感じている。 保守派の価値観の話に戻ろう。彼らは、日本というある意味での理想郷の人々と価値観を共有しているのだから、自分たちは人種差別主義者では断じてないと考える。一方、同じアジア系でも中国のことは、容赦なく批判する。 民主主義国家とは大きく異なる中国政府の価値観や政治思想、国としての政策や行動を批判している限りは、必ずしも人種差別的とは断定できないだろう。 ただ、中国をかつてのソビエト連邦に代わる邪悪な敵と決めつけて憎悪の度合いを強めているのは、それこそトランプ前大統領が掲げるような「アメリカ第一主義」が持つ排他的要素の表出に他ならない。 実際、彼らにとって日本が思想上の理想郷だとしても、日本企業によるアメリカ企業の買収には反対する。2023年12月、日本製鉄はアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収を発表したが、保守派に支えられるトランプ前大統領は、「私なら即座に阻止する」と述べた。 さらに、バイデン大統領までが買収反対の声明を出した。バイデン大統領は自由貿易推進の立場かと思っていたが、必ずしもそうではないようだ。 大統領選挙が近づく中、国内世論を気にしなければならなかったということなのだろうが、その国内世論の中で、「アメリカ第一主義」が拡散し、浸透していることもうかがえた。
---------- 及川順(おいかわ じゅん) 1971年生まれ。東京大学経済学部卒業。1994年NHKに記者として入局。国内政治、アメリカ政治を中心に取材。報道局政治部、アメリカ総局(ニューヨーク)などを経て2019年からロサンゼルス支局長。2023年から沖縄放送局コンテンツセンター長。2010年、国連記者協会賞受賞。著書は『非科学主義信仰 揺れるアメリカ社会の現場から』(集英社新書)。 ----------
及川順