1994年12月19日、現状維持（1億1500万円）で契約更改した原辰徳（当時36歳）。記者会見で巨人ナインの不満を代弁する photograph by KYODO

40歳での鮮烈なFA宣言、巨人へ電撃移籍した落合博満……1993年12月のことだった。 あれから30年。巨人にとって落合博満がいた3年間とは何だったのか？　当時を徹底検証する書籍「巨人軍vs.落合博満」が発売され、即重版と売れ行き好調だ。 その書籍のなかから、「原辰徳vs.落合博満」を紹介する。落合の移籍1年目に巨人は日本一に輝いた。しかしそのオフ、原辰徳が落合の“年俸4億円超”に不満を漏らす。【全2回の前編/後編も公開中】 【貴重写真】「落合がマジギレしてる…」激怒する落合40歳＆「ニコニコ笑顔2ショット」の落合・原、「20代のカッコいい」落合まですべて見る（30枚超） ◆◆◆

「日本シリーズは無理だろう…」

「日本シリーズは、最初から無理だろうと思っていた。でも長嶋さんから、『守れなくてもバットを振ればゲームになる』って言われてびっくりした。内転筋と腹直筋、あともう一本切って、足引きずりながらやっと歩いてるのに。あの発想には、さすがに恐れ入りました。でも、自分の身体は自分が一番よくわかるからね。無理だろうなって思っていた。俺の中では、十月八日でシーズンは終わったんだ」(VHS「長嶋茂雄 第三巻 背番号33の時代」BOOK「証言・長嶋茂雄」/メディアファクトリー) 　落合が中日との同率優勝決定戦“10・8決戦”で、一塁守備時に痛めた左太もも内転筋はやはり重傷だった。先制アーチと勝ち越しタイムリーを放ち、中日のキャプテン仁村徹をして「なんだかんだいっても、オレたちは“落合”という存在に負けたんだ」と言わしめた大活躍の代償はあまりに大きかった。だが、一方で10月22日から始まる西武との日本シリーズに向けて、患部に注射を打ち、軽い打撃練習を試すなど、最後まで出場に闘志を燃やしたのも事実である。

異例の「オチアイ」コール

「シリーズが始まる一週間くらい前、深夜に2人でビデオを借りに出掛けたんですよ。その道すがら、歩くのも痛そうだった主人が夜道のど真ん中で、また上げ運動を始めたんですよ。しかも何度も。思わず“やめな！　”って止めたんですが、その時、改めて“この人は足がちぎれても出る気なんだ。もう一度長嶋監督を胴上げしようと考えているんだ”と思ったんです」(NIKKAN　SPORTS　GRAPH増刊号 激勝!!　長嶋巨人/日刊スポーツ出版社) 　普段は亭主が死球を当てられても「アンタ、休むつもり？」と尻を叩き続けた信子夫人が、今度ばかりはさすがに止める深刻な状態だったが、10月25日の日本シリーズ第3戦に落合は「四番DH」で強行出場する。1勝1敗で迎えた、シリーズ30年ぶりのナイター開催となった気温14度と冷え込む西武球場で、背番号60の打撃練習中に満員のレフトスタンドからは異例の「オチアイ」コールが送られた。 　テレビ視聴率40％の大台を突破した日本中が注目する第1打席、二死二塁の場面で西武先発・小野和義に厳しく内角を攻められながらも、カウント1―3からのカーブをしぶとく二塁内野安打。二塁手・辻発彦の三塁への悪送球もあり、川相昌弘が先制のホームイン。歯を食いしばりながら苦悶の表情で一塁へ走った背番号60は、その激走と引き換えに左足内転筋痛を悪化させ、加えて左腹直筋肉離れまで引き起こしてしまう。