「イチローや大谷でさえ…」必死にあがく自分に手を差し伸べたディレクターの ”一言”
いままで、「大切な人と深くつながるために」「いじめられている君へ」「親の期待に応えなくていい」など、10代に向けて多くのメッセージを発信してきた作家の鴻上尚史さんが「今の10代に贈る生きるヒント」を6月12日に刊行した。その書籍のタイトルは『君はどう生きるか』。昨年ジブリの映画でも話題になった90年近く前のベストセラーをもじったこのタイトル。なぜ「君たち」でなくて「君」なのか。そこには鴻上尚史の考える時代の大きな変化があった。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 『君はどう生きるか』(鴻上尚史著)より抜粋して、著者がいまを生きる10代に贈るメッセージを一部紹介する。 『君はどう生きるか』連載第38回 『君は「絶対」に0点ではない…自分を見るだけでは気付けない!君の「“57点”の素晴らしい長所」』より続く
天才でも3割
自信がない人に「完璧主義」の人がいる。完璧にやろうとして自信をなくしている人だ。 話はいきなり変わるけど、大谷翔平選手やイチロー選手の打率は知ってる? イチロー選手のアメリカでの生涯打率は、3割1分1厘(0・311)、大谷選手の2023年の打率は3割4厘(0・304)だ。 つまり、天才と言われる彼らでさえ、ヒットやホームランを打つのは、3回に1回なんだ。残りの2回は三振などのアウトだ。 天才で3割なんだよ。 でも、完璧主義の人は、10割を目指すんだ。
完璧は目指さなくていい
ぼくは25歳の時に、オールナイトニッポンという深夜放送を担当することになった。君は知らないだろうが、ラジオの深夜放送では一番有名な番組だ。 ぼくは興奮し、毎回、面白い放送にしようと2時間、がんばった。 でも、必死になればなるほど、ギャグは空回りし、言葉はあちゃこちゃに飛び跳ね、焦りまくり、まったくうまくいかなかった。 その時、番組のディレクターが「長嶋茂雄選手でも生涯打率は3割5厘(0・305)なんだよ。つまり、3回に2回は、アウトなんだ。ヒットなんて、3回に1回打てばいいんだから。ガンバリすぎちゃだめだよ」とアドバイスをくれたんだ。 長嶋茂雄選手というのは、その当時の野球界のスーパースターだ。 ぼくは驚いた。イメージの中では、長嶋選手は、8割ぐらいはヒットを打っていると思っていたからね。 「3回に1回のヒットでいいのか」と思ったら、体から余計な力が抜けた。「必死にがんばろう!」と決意していた緊張が抜けて、話すことが楽しくなった。 間違いなく、ラジオを聞いている人も楽しくなったと思う。 完璧なんか目指さなくていいんだ。天才でさえ、3回に1回の成功なんだから。そう思って、君もいろんなことをやってみないか。 『「背が低い」と悩んでいるなんてもったいない!…あなたは「変わらないこと」を悩み続けていませんか?』へ続く
鴻上 尚史(・作家・演出家)