バスケットボール・正中岳城さん|生粋のキャプテンキャラが企業人として成長中<後編>
本格的なプロリーグとして2016年に立ち上がったBリーグは毎年着実に成長を遂げ、2023年に沖縄で開催されたFIBAワールドカップでの日本代表チームの活躍を起爆剤に、一般のファンをも巻き込んだブームを起こしたとも言えるだろう。 ただ、正中岳城さんはプロの道を選ばず、アマチュア契約を改めて結んでアルバルク東京でプレーを続けていた。とはいえ、正中さんも他のプロ契約を結んだ選手たちと同じように、1日のすべてをバスケットボール中心とする生活に身を置く。それでもトヨタ自動車からの出向の立場でプレーに専念した。 2020年に現役を引退すると、Bリーグ開幕前に所属していたアルバルク東京の親会社でもあるトヨタ自動車に籍を戻してサラリーマン生活を再開させた。そして今年の9月からアルバルク東京の運営会社であるトヨタアルバルク東京へ再び出向。今度はクラブの一員 として業務にあたり、肩書は「アルバルク事業部副部長」。 インタビューの後編ではどの部署に配属されても変わらない業務に対する向き合い方、そして将来への展望をうかがっていく。 取材=入江美紀雄 撮影=須田康暉
伝説のスピーチは特に台本もなく、自身の言葉を紡いだもの
――Bリーグの開幕戦のカードにアルバルク東京と琉球ゴールデンキングスが選ばれました。 正中 いろんな思いがたくさん包含されたリーグが立ち上がり、競技者の一人として、あの舞台に立てるということは望んでも叶わないこともあるので、歓迎していたところはありました。ただ、インパクトのある内容をお届けしないといけないとか、実業団リーグに系譜を継ぐクラブとしてのプライドを示したいなど、勝つことへのプレッシャーを大いに感じていたのは事実です。 ――Bリーグの開幕戦と言えば、正中さんのスピーチが思い出されます。素晴らしい言葉で綴られていましたが、台本があったのですか? 正中 あのようなスポットライトを浴びたセレモニーの仕立てで、マイクの前に立つという詳細までは聞いていませんでした。ただ、「あるかもな」とも思っていたので、言うべきことは整理していこうと準備はしていましたが、台本はありません。ただ、あの演出の中で行ったわけですから、準備しておいてよかったとも思いました(笑)。 ――Bリーグ開幕前、トヨタ自動車アルバルクは実業団チームであり、所属する選手はアマチュアに区分されていました。それが、Bリーグがスタートする際、参加チーム、そこに所属する選手はプロになります。正社員としてプレーしていた正中さんは自分の身の振り方をどうしようと考えましたか。実業団でプレーしていた選手の中にはプロになるか、どうするかを悩んでいた人もいたと聞きます。 正中 特に悩みはありませんでした。Bリーグの発足とともに用意されていた規約には、アマチュア選手としてプレーすることが許されていました。さらに会社がその立場になることを認めてくれたので、アルバルク東京に出向できたわけです。そして、他のプロ選手と一緒にプロリーグでプレーができたわけですから。 ――いまだアルバルク東京以外のクラブが達成していないリーグ連覇という輝かしい記録を残して正中さんは2020年に引退されます。そのままチームに残る選択はなかったのですか。 正中 私がBリーグでプレーした4年間に多くのものがアップデートされました。チームスタッフやフロントスタッフもそれぞれプロフェッショナルな方が関わるようになり、クラブは徐々に筋肉質になっていく過程にあったと思います。私は復職することを選択しましたが、どちらにせよインプットしなければいけないことはたくさんあり、キャリアを重ねていかなければいけないわけです。ただ、復職して学んだことを何年か先のアルバルクのクラブのために、何らかのかたちで活かせるような道があると良いなと、再びクラブに関われることへの期待も込めて、おぼろげに思っていました。