私は生きることを諦めた―― “安楽死”を選択した男性、耐え難い激痛の日々 声をあげて泣く妹へ「強く生きて」
■安楽死へ厳格な審査 団体が定める4条件
翌日、体調を少し持ち直したクレイさんのもとに、安楽死団体「ライフサークル」の代表、エリカ・プライシック医師がやってきた。ライフサークルは、2011年に設立されたスイスの団体の1つで、海外からの希望者も受け入れている(現在は新規会員の受け入れを終了)。ここに会員登録しているクレイさんは、医師による審査の結果、許可が下りれば安楽死することができる。 ライフサークルが定めている安楽死の要件は「耐え難い苦痛」、「回復の見込みがない」、「治療の代替手段がない」、「明確な意思表示」の4つだ。「耐え難い苦痛」は肉体的な痛みである必要はなく、精神的な痛みも含まれる。プライシック医師は、クレイさんとの対面での審査や別の医師の意見も踏まえて、4つの要件を満たしていると判断し、安楽死を許可した。 「本当は安楽死よりも治してあげたいのだけど、治療の方法がありません」 そう話すプライシック医師に対し、クレイさんはこう答えた。 「私を死なせてくれるのが治療なのです」
■両親への心残り 声を上げて泣いた妹
安楽死の選択に迷いはないが、クレイさんは9年間、献身的に介護してくれた両親を残して旅立つことだけが心残りだった。父は高齢で末期がん、母は父の看病があるため、スイスまで来ることができない。2人は「フランスに安楽死法があれば、息子を看取ることができたのに」と悔やんでいたという。 クレイさんの胸には、両親と、4人兄妹の中でも最も可愛がっていた末妹の名前がタトゥーとして彫られている。その名前の下には「どんなに感謝しても感謝しきれない」というメッセージが入っていた。「一緒に旅立ちたいという思いから、タトゥーを入れました」 末妹のブランディーヌさんは、兄の反対を押し切り、家族の中で唯一人スイスまでやってきた。当初は兄の決断を「自分たちを捨てて旅立つ」と感じ、受け入れることができなかったが、次第に「利己的なのは自分であり、兄の決断を尊重しなければならない」と考えるようになったという。 ブランディーヌさんは平静を保とうと努めていたが、安楽死の許可が下りると堪えきれずに、椅子から立ち上がった。兄の方に向かっていき、抱きしめ、その胸に顔をうずめて声を上げて泣いた。